※現代学生パロ









学校を出たヨハンは暑い夏の青空の下、のろのろと歩いていた。風も無く、少し歩いただけで汗をかいてしまう。
ヨハンは鞄から白いタオルを取り出すと、ぐいっと額の汗を拭った。

今日は夏休みの生徒会会議に出ていたのだ。
正直この暑い中、行きたいわけもなかったが、副会長であるヨハンがズル休みするわけにもいかない。
そもそも副会長だっていつの間にか推薦されていて、いつの間にかなっていたのだ。
頼まれたからやっているわけで、どうにも積極的にはなれなかった。
もちろん、やるからには最後までしっかりやり通すつもりだが。


「あちぃ……やっぱり日本の夏はつらいぜ」


北欧生まれであるヨハンにはこの暑さはキツい。
そして学校の立地も悪い。最寄り駅から徒歩25分。周りには畑と工場ばかり。どうかしてると思う。
唯一近くにあるコンビニが見えて、ヨハンはそこに寄ることにする。


自動ドアをくぐると、涼しい冷気がヨハンを包んだ。
レジではお昼時の為にたくさんの人がレジに並んでいる。

中には同じ学校の生徒もいた。茶色の髪に、部活の練習だったのか、学校指定のジャージに赤いエナメルの鞄を持っている。
ヨハンと同じく涼もうと入ったのか、その男子生徒は漫画雑誌を立ち読みしていた。


ヨハンも雑誌をとってパラパラと見てみるが、立ち読みだとどうにも落ち着かない。
結局すぐに雑誌を置いて、ペットボトルの紅茶をとった。そしてパンコーナーで焼きそばパンをとるとレジに向かった。

購入して店を出ようとした時、ふと雑誌コーナーを見ると同じ学校の生徒はようやくドリンクコーナーへ向かったようだった。

外に出ると、すぐに熱気がヨハンを襲った。買ったばかりのペットボトルの蓋をとって一口飲んだ。

冷たいものを飲み、生き返ると再び駅に向かう。
歩きながら食べるのは行儀が悪いと知りながらも、空腹の為にビニール包装をピリピリと破り、焼きそばパンにかじりついた。
ソース味のスパイスがよくきいた焼きそばと、ふっくらしたパンの組み合わせは抜群だ。


食べながら炎天下の道路を歩いていると、何故か道路の先に水たまりがあった。
雨が降ったわけでもないので、水撒きでもしたんだろうか。

そのまま歩いていると、不思議なことに水たまりまで移動し始めた。

「あ、あれ?」

そして最初に水たまりがあった地点にヨハンは立つ。焼きそばパンはもう食べ終わっていた。
もちろん、そこには水たまりなどない。道路が濡れているわけでもない。

「おっかしいなぁ……確かにここにあったはずなんだけど……」

水たまりはまたヨハンよりずっと先にあった。不思議だ。確かにあったはずなのに。

不思議な現象にヨハンは久しぶりにワクワクとした気持ちを覚えた。今思えば最近こんなこともなかった。
生徒会で遅くまで残ったり、ついこの間までテスト期間だったりで、気を張ってることが多かったのだ。

こうなったら絶対あの水たまりを踏んでやる!

そう意気込んだヨハンはかいた汗をタオルで拭い、飲み物を飲んだ。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ジィジィとアブラゼミが鳴く中、ヨハンは歩いた。
道路の水たまりはヨハンと同じように歩いていってしまう。

まるで追いかけっこでもしているみたいだ、と思いながら歩いたところで水たまりは突然消えてしまった。


「あれ?何でだ?」

消えてしまった水たまりを残念に思いながら、ヨハンは再び歩いた。信号を渡り、真っ直ぐ歩きながら飲み物を飲んだ。ペットボトルに入ったそれはもう半分以上減っていた。


そのまま飲み干して、空になったペットボトルを近くにあった自販機の隣のゴミ箱へと入れる。

これでよし、とひとつ頷いてからヨハンがふと後ろを向けば再び先程と同じような水たまりがあった。

「今度こそ逃がさないぜ!」

そう宣言したヨハンは今度は走り出した。
これで車がきたら大変なことになっただろうが、幸運にもそれはなかった。

ダッシュで追いかけても水たまりは歩いた時と同じように逃げていってしまう。
逃げられると追いかけたくなってしまうなぁ、と思いながらヨハンはスピードをあげた。


走った為に生まれる風はずいぶんと生ぬるい。だが、ヨハンにとっては心地よい風であった。

そのまま走っていると、50メートル程先にある角から赤い自転車に乗った同じ学校の生徒が出てきた。茶色い髪の毛に、自転車のカゴには赤いエナメルバッグが入っているのでコンビニにいた生徒らしい。
そのまま走って、ある家の前に停まる。
その生徒が水たまりの上に降りたのを見て、ヨハンは思わず叫んでいた。


「ああーーーー!!?」

ヨハンの叫び声に、茶髪の生徒が驚いたようにヨハンの方を見た。

「君!下!足元に水たまりが無いか!?」

「へ?水たまり?」

突然遠くから声をかけられた生徒は困惑しながらも足元を見た。もちろん、水たまりなんてない。


「べつに何もねーけどー?」

「えぇっ、やっぱりすげー!俺のところから見たら、君は今水たまりの上に立ってるんだぜー!!」

「はぁ?」

「いいからちょっとこっちこいよー!!」


笑顔でぶんぶんと手を振りながら、ヨハンが自分のところに来るように促すとその生徒は素直にこっちへと来てくれる。

そして先程まで自分がいた場所に水たまりが確かにあるのを確認して「おおっ!」と声をあげた。


「な?俺の言った通りだろ?」

「うん。俺あそこにいたのかー……」

「さっきからずーっと追いかけてたんだけど、なかなか捕まえられなくてさぁ……そしたら君が呆気なく捕まえちゃったから、びっくりしたぜ」

「追いかけてたのか……逃げ水、俺も昔追いかけたなぁ」

「逃げ水?」


ヨハンが初めて聞く言葉に首を傾げると、ああ…知らないよなぁと言って説明をしてくれる。


「さっきの水たまりのことだよ。道路が熱くなって空気がどうのこうので見えるんだと。追いかけても追いつかないから逃げ水って言うんだってさ。……カイザーが言ってた!」


突然出てきた生徒会長の名前にヨハンは思わずキョトン、としてしまった。


「えっと……カイザーって、生徒会長の?知り合いなのか?」

「友達の兄ちゃんでさ、昔からよく一緒に遊んでたんだ」

「へぇ……」

「お前だって、カイザーのこと、よく知ってるだろ?副会長さん」

「どうだろうな。少なくとも、君と知り合いだってことは知らなかったよ」

「あはは!そうだな!言うとよくびっくりされるぜ」

「あ、あと……俺はヨハン・アンデルセン!副会長じゃなくてヨハンって呼んで欲しいぜ!」

「ヨハン……俺は遊城十代。よろしくな!」


自然にぐっ、と握手を交わした二人は穏やかに笑った。





















(出来たのは友達でした!)






























あとがき


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