チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえる中、ヨハンはぼんやりと意識が覚醒した。だが眠さにまだ瞼は閉じたままだ。ごろんと寝返りを打てば、ふわりといい匂いがした。
そしてチクリと額に何かが刺さるような感覚。チクチクとヨハンを苛むそれに、ヨハンは仕方なくとろとろと瞼を開けた。

起き上がり枕元を見れば、赤い薔薇がそこにはあった。枕元に一輪。

チクチクとヨハンの額に刺さったのは薔薇の棘なのだ。
一体誰がこんなところに置いたのか、額を擦りながら床を見ればもう一本、赤い薔薇が落ちていた。
いや、一本だけではない。もう一本、そしてもう一本。道しるべのようにそれは置かれていた。
枕元に置いてある目覚まし時計を見れば朝の5時23分を指している。
学校の時間まではまだ余裕があった。

もちろんヨハンは着替えてこの薔薇の後を追うことに決めた。何となくだが、犯人は分かっている。









部屋の薔薇を一本一本拾いあげていく。
そして昔読んだ童話の道しるべにパンをちぎって置いて行く話を思い出した。これとは逆だが、何だか無性にわくわくしていた。

部屋の薔薇はそのまま外へと通じていた。ブルー寮の廊下はまだみんな寝ているのだろう、しんと静まり返っていた。
その廊下に点々と赤い薔薇が続いている。

一本、また一本と拾っているといつの間にか寮の玄関へと辿り着いた。寮の鍵はいつも6時頃に開くはずだったが、何故か既に開いていた。カチャリと静かにドアを開けて、外へ出ると静かに閉めた。

外はもう既に明るくなってきていたが、太陽はまだほとんど見えていない。その為、少しひんやりとした空気が気持ちいい。
足元を見ればまだ赤い薔薇は続いていた。
一体何処まで続くのか、ヨハンは森の中を歩く。一本ずつ拾いながら、ふと何本拾ったのか数えてみれば既に100本は拾っていた。ヨハンの腕一杯になってきたのでさすがにつらいなぁと思っていると、校舎が見えてきた。

拾いながら、校舎へと辿り着くとそこには

「ネオス……?何でここに……」

ネオスは実体化されていて、十代のものだとわかる。そして腕を出してきて薔薇を代わりに持つと言ってきた。どうやらいっぱいになることを予想してネオスという荷物持ちを十代は出したらしい。

「うーん……何というか、精霊使いが荒いような…………まぁ、よろしく頼むよネオス」

そう言ってヨハンはネオスへ薔薇を預けた。ネオスはそれを大事そうに持ってくれている。
それに安心したヨハンは再び薔薇を拾い続ける。

ここでも開いていないはずの昇降口の鍵は開いていた。
中に入るとこちらも寮同様静まり返っていた。コツン、と足音がやけに響く。

コツン、コツンと鳴らしながら、薔薇を拾っていく。廊下をずっと歩き続け、階段へと差し掛かる。
階段にも一本一本薔薇が置いてあった。
それを拾い続けているとゴールが何となく分かった気がした。


「…………やっぱり」


ヨハンの目の前には屋上へと続く扉。きっとゴールは屋上なのだ。

扉の前の薔薇を拾い、屋上への扉を開けた。屋上の真ん中には薔薇が一本、置かれている。そして、その目の前には予想した通りの人物――恋人の十代がいた。

最後の一本であろう、その真ん中の薔薇をヨハンは拾う。


「十代、随分と手の込んだことをしたもんだな」

「まぁな。けっこう大変だったんだぜ。……誕生日おめでとう、ヨハン」

「ありがとう!!ご苦労さま!嬉しいぜ!」

「ヨハンの誕生日だからな。これぐらいはしないと」

「それにしても薔薇とはロマンチックだな〜」

「あ〜……ところでヨハン、薔薇の本数は数えてたか?」

「ん?……えーっと…最後にこの薔薇を足して、365本か?」

「当たり。薔薇を365本渡すのは意味があってさ、」

「意味?」

「ああ…『あなたのことが毎日恋しくてたまらない』っていう意味だ」



パチンとウインクをしてみせた十代に、ヨハンの顔が熱くなる。


「誕生日だろうがなんだろうが俺は毎日ヨハンが好きだ」

「俺だって……十代のこと好きだぜ」


照れているのか小さな声で言ったヨハンに微笑んでから十代はずいっと更に薔薇の花束を差し出した。


「ヨハン、愛してる。結婚してくれ」

「え……こ、これ…!」


ヨハンの目の前には虹色をしたたくさんの薔薇があった。初めて見る虹色の薔薇に十代からのプロポーズにヨハンはどぎまぎしてしまう。


「これ、レインボーローズって言うんだ。花言葉は『奇跡』と『無限の可能性』」

「すごい……こんなのがあるんだな」

「ヨハンみたいだと思ってさ……俺と結婚なんてしたら大変なこともある。たぶん、つらいことの方が多いと思う……だから、」

「それでも俺は十代と一緒にいるぜ」


十代の言葉の続きを待たずにヨハンは言った。
困難だから、つらいだろうから、そんな理由で十代と離れるのだけは絶対に嫌だった。


「だいたい、生半可な覚悟で今までお前と一緒にいたわけないだろ」

いい加減気づけよ、と言ってヨハンは十代の額にビシッとデコピンをした。
十代は額を押さえながら苦笑いをすると、


「それも……そうだな」

「だろ?」

「とりあえずヨハン」

「ん?」

「デコピン、強くやりすぎだ」


十代の額は薔薇の赤色の様に赤くなっていたのだった。






















(どうかお幸せに!)


























あとがき


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