きっかり朝5時に目覚ましが鳴って俺はガバリと飛び起きた。

急いでベッドから出ると閉まっている紺色のカーテンを開ける。外は明るくなり始めていた。たくさんの光が窓から差し込んでくる。

寝坊してばかりだが、今日は特別な日だ。昨日は緊張して眠れなかったし、やはり体も特別な日だと感じとっているのだろう。


朝日が差し込んで机の上にある箱を照らした。
薄い紫色の小さな箱。その中には指輪が入っている。ヨハンのイメージカラーの青色の宝石がついた指輪だ。

高いものではないが、自分が貯金をしてここまでやれたのはやはり愛のおかげだろう。



そう、俺は今日、ヨハンにプロポーズをする。



気合いを入れて朝食を食べることにして、六枚切りの食パンをオーブントースターでこんがりきつね色に焼き上げた。
トーストにはたっぷりのバターを落とす。
卵はフライパンでぐるぐるとかき混ぜてスクランブルエッグに。仕上げに塩こしょうを振りかけた。
そしてインスタントのスープの粉末をマグカップへ入れ、お湯を注げばトマトのミネストローネの完成だ。

テーブルへとそれらを置いて、「いただきます」手を合わせる。

トーストにかじりつけば染み込んだバターがじわりと出てきてたまらない。おいしい。

あっという間に食べ尽くしてから、しっかりと歯を磨いた。
いつもより念入りに、丁寧に磨きあげてから口を濯ぐ。

髪もいつもよりしっかり整えて新品のシャツを着た。慣れないながらもネクタイも締めた。これなら服装は完璧のはずだ。


問題は告白の仕方だが、相手は外国人。そして日本が好きだときたらあれだ。あれしかない。
そう思い、理想の告白のシミュレーションを頭の中でしてから家を出る。

が、数歩歩いて指輪を忘れたことに気付き家に逆戻りするのだった。













待ち合わせ場所は近くの大きな公園だ。中央広場には噴水があり、日差しが熱い中涼しさを感じられる。
パシャパシャと音を立てて水のショーが繰り広げられるそれを背にして十代は立った。

腕時計を見れば時刻は待ち合わせである12時の10分前。
まだ待つことになりそうだ。

なんて言ったって彼は方向音痴なのだ。待ち合わせに遅れるなんて仕方ないことだ。
しかしこの公園は学校への通学路として何度も通ってるのだからヨハンでもきっと分かりやすいだろう。
そう考えて待ち合わせ場所をここに決めた。

十代は深呼吸してヨハンを待つ。

時計が12時を指し、お昼のチャイムが鳴った。












「……遅い。いくら何でも遅すぎるぜヨハン…」

時刻は既に夕方の4時を過ぎていた。橙色の光が十代を照らす。

公園では門限の早い子ども達が続々と帰っていく。
携帯を見ても連絡はない。新着メールを問い合わせてみても、メールはなかった。


「やっぱり迷ってんのかな……」

出来るだけ、ここでプロポーズしたかったが仕方ない。探しに行くことを決めて、歩き出す。

まず公園内を探して、それでも見つからなかったらヨハンの家へ向かおう。
そう考えながら噴水の南側、大きな桜の木がある方に向かって歩いていくと、ヨハンはすぐ近くにいた。

花びらもとっくに散り終えて、緑の葉を揺らす桜の木の近くのベンチでヨハンは本を読んでいた。
黙々と分厚い赤いハードカバーの本を読み進めている。

その様子に拍子抜けしてしまう。
まさか、こんな近くにいたなんて!


「おい、ヨハン!こんなところで何してるんだよ!」

「へ?」

「俺がどんだけ待ったと思ってるんだ!四時間は待ったぞ!」

「えっ?……あ、ごめん…?」

「ったく……迷ってたのか?迷ったなら連絡ぐらいしろよな。迎えにも行ってやれないだろ」


本当にヨハンは抜けていて困る。俺がいなかったらどうするつもりだったんだか……


「お前昨日の夜もボディソープと間違えてシャンプーで体洗ったしさぁ……変なところで抜けてるよな」

「な、何でそれを知ってるんだよ…!?」

「は?ヨハンが教えてくれたんだろー。間違えちったーとか言って」

「い、言ったさ!!……けど俺はお前のことなんか知らない……だからお前に教えるわけない…誰なんだよお前……何で俺を知ってるんだよ……」


ヨハンは青ざめた顔で怯え始めた。表情には出さないが、微かに体が震えている。
俺にはそんなことも見抜ける。ずっとずっとヨハンを見続けていたのだから。

「誰って……お前の未来の旦那だよ。ほら…」

そう言ってポケットから指輪の入った箱をだし、渡す予定の指輪を見せてやる。


「指輪……」

「俺と結婚してくれ、ヨハン」

「い、いやだ……お前完全にストーカーじゃないか!ストーカーなんかと結婚なんて……」


ストーカー。ヨハンの言葉に俺はピクリと反応した。


「ストーカー?ヨハン、ストーカーがいたのか!?くそっ、どこのどいつだ……俺のヨハンに」


しっかりヨハンのことを見守っていたはずなのに……ストーカーがいたなんて許せない。


「大丈夫だ、ヨハン。俺がお前のことをずぅっと守ってやるからな!」

「な、何が大丈夫……」

「とりあえず、左手の薬指を切り落として俺以外と結婚出来ないようにしないと……」


安心させる為ににっこり笑って、チキチキとポケットから出したカッターを持って近寄れば、ヨハンはヒッ!と声をあげるとカタカタ震えながら走り出してしまう。

「お、おい……ヨハン!危ないぞ!!」

全くヨハンは仕方ない……ストーカーがいるんだから鬼ごっこなんてしてる暇ないのに。
ため息を吐いてから、思いっきり足を踏み出した。


「待てよ、よはあああああん!!!!!」


















(果たして暴走する恋心から逃げられるのだろうか?)


























あとがき


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