チカチカと点滅する薄氷色のランプ、それは彼からの着信を告げるものだ。

時代遅れと言われるかもしれない、携帯電話の通話ボタンを押した。



……深夜にかかってくる電話なんて、大抵良いものじゃない。例えばそれは誰かが亡くなったことを報せるものだったり、ただのゴミ箱になれという命令だったりする。

それで叩き起こされた時の俺の絶望度はきっとこんな機械では測れないだろう。

でも薄氷色のランプが着く時だけは違う。早く通話ボタンを押して、相手の声を聴きたくなるんだ。
遠く離れた場所にいる筈の相手は、こうして電話を掛けてきてくれる。けれど時差のせいかいつも真夜中に電話がかかってくるのだ。
深夜2時頃、夜更かしをして俺が暇になり始めるそれぐらいの時間に電話はくる。


『もしもし、十代?』

「もしもし、俺だぜ。ヨハン」

『えぇと……そっちは今、夜中なのかな』

「そうだぜ。深夜2時16分。そっちは?」

『こっちは明るいよ。朝じゃないかな』

「ふーん……そっか、おはよう。ヨハン」

『ああ!こんばんは、十代』


ヨハンは明るい声色で今日の出来事を話始めた。
道行く人が幸せそうにしていたのでヨハンも幸せになれたこと。小さな子にわたがしをあげたこと。夕飯に食べた真っ赤な色のスープが美味しかったこと。

ヨハンの話を俺は相槌を打ちながら聞く。これだけで本当に幸せだった。ヨハンの声を聞けるだけ、話せるだけでまた明日も頑張ろうと思える。会えないのはもちろん寂しいけれど。


その後、適当にくだらない話をして一時間程の電話を切った。終話ボタンを押すと表示される通話時間。この時間が、俺にとっての癒しの時間なんだ。




途端に静まりかえる部屋。騒ぎ出す俺の心。

ああ……ヨハンに会えたらいいのに。


それは今は叶わないことで、もっとずっと時間が経たないと会えないらしい。

1日は24時間。そのうちに俺がヨハンと繋がったのはたったの1時間弱。
会えるまでには24時間が何百、何千と必要だ。それを考えると途端にぽっかりとした空白が俺の中に入り込む。

それが外に出ないように閉じ込めて、マシュマロン型のビーズクッションを抱き締めた。
ぐいぐいと引っ張ったり潰したりすると、マシュマロンは情けない顔をする。それはきっとマシュマロンの顔であり、俺の顔でもあるのだろう。

ベッドに横になって枕に顔を押し付けた。誰もいないから、その必要はないのに聞こえないぐらい小さな声を枕にぶつける。
それがまた空白を増やした気がして、ぶつけることを諦めた。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇





次の晩も、ヨハンから電話がきた。深夜2時過ぎ。俺が歯磨きを終えてベッドに入った時だった。

薄氷色のランプが俺に知らせる。ヨハンからだと気付いて直ぐに通話ボタンを押した。


『もしもし、十代?』

「もしもし、俺だぜ。ヨハン」

『えぇと……そっちは今、夜中なのかな』

「そうだぜ。そっちは朝か?」

『ああ!明るいぜ!』

「そっか、おはよう。ヨハン」

『こんばんは、十代』


いつも通りの挨拶だった。そして俺はヨハンの今日の1日を聞く。今日は犬と遊んだらしい。ヨハンは動物好きだから、犬と一緒にいる姿はすぐにイメージ出来た。ついでにすごく似合う。
俺も今日のことを話したりするが、ヨハンほどたくさんあるわけじゃない。日常の出来事より、デュエルの方に俺は気がいっちまうから。
ヨハンは道端のコンクリートの隙間から生える、小さな花に気づくようなタイプで俺と違って些細なことに気付く。
……周りをよく見ているから、なんだろうな。俺もヨハンに話せるようにもっと周りを見よう……。


『そういえば十代』

「ん?」

『そっちって今寒いよな?』

「何言ってんだよ、当たり前だろ?ヨハンの故郷ほどじゃないけど、昨日だって冷え込んだんだぜ!」

『そっか……そうだよな!今は冬だもんな!』

「おう。……でも、何でいきなりそんなこと訊くんだ?」

『ああ……それがさ、俺のところ全然寒くないんだよ」

「寒く…ない?」

『冬のはずなのに、一度も雪が降らないんだよ』

「えっ!?一度もか……すごいな」

『むしろぽかぽかしててあったかくてさぁ……何か落ち着かないんだよな、冬に雪が無いと』

「へぇ……ヨハンって意外とめんどくさいやつだな」

『だってしょうがないだろー!雪があるのが当然だって思ってたんだからさ』

「でも雪がなくて駄目になるって何か……ぷっ…あはは!」

『笑うなって!!』


そう、誰かのそばにあって当然なものは、誰かにとってそばになくて当然なものなんだろうな。


……あれ?何か変な感じがする。
ぐわんぐわんと目の前が揺れるし、キーンという耳鳴りが響く。そのまま視界が真っ暗になって、ベッドに倒れ込んだ。何だこれ。


「…………十代?」

ヨハンの声が近くから聞こえる。電話という機械を通した音じゃない。本当に、そばにいて、耳元で話してるみたいな、


「ヨハ…ン……?」

「大丈夫、俺はいつでも十代のそばにいるよ」

「……そっか…」


頷くと、じわりじわりと真っ黒の影が俺の視界から消えていく。ぼやける視界であたりを見回してもヨハンはいなかった。

当たり前だ、だってヨハンは




「……ヨハンは、死んだんだ」




遺影に写るヨハンは俺に向かって優しく微笑んでいた。















(=冷たくなった人と
繋がれる時間)




















あとがき


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