※もしもヨハンが○○だったら〜 な捏造







ヨハンは俺と手を繋いでくれない。


俺とヨハンが恋人になって3ヶ月。もう手を繋いだっていい頃だ。いや、キスだってしていいだろう。

なのに俺たちは何一つ進展してなかったのだ。毎日学校に行って、デュエルして……。その日常の中でデートと称して海に行ったりもした。けれど手を繋ぐこともなく、海を見ながら砂浜にあった貝を投げたりして遊んだ程度だった。


正直言うと、俺は恋愛事には疎い。
自分でもわかっていたし、他人にも言われたから間違ってないはずだ。
そんな俺でさえ、これはいわゆる一般的なデートとは程遠いってことはわかる。男同士、しかもこの島の中じゃ出来るデートは限られているだろう。けどそれにしたってこれはおかしい。
そう思って何とか恋人として手を繋ごうとしてきたけど、全部うまくいかない。全て避けられてるかのように繋ぐことが出来ていないままだった。



ヨハンは今も手を繋ぐことのないまま隣の席に座っている。
シャーペンでさらさらと先生の話をメモしているようで、隣の俺には見向きもしない。

むすーっとしながらヨハンを見ていると、ようやくこっちを見てきたけど「ちゃんと授業受けろよ」と注意だけしてまた前を向いてしまう。
それに更にムッとしながらも仕方なくペン持ち、ホワイトボードに書かれていることを書き写していく。

「んー……あっ」

途中で間違えてペンケースから消しゴムを探すが見当たらない。どこかで無くしたんだろうか。

「わりぃ、ヨハン…ちょっと消しゴム貸してくれるか?」

「え?……ああ!無くしたのか?」

「たぶん…」

青色のカバーがついた消しゴムをヨハンが渡してくれる。それを有り難く貸してもらって間違いを直すと、ヨハンに返す。……つもりだったのだが。
ヨハンはにっこり笑って「お前にやるよ」と。

「いや!そしたら今度はヨハンが困るだろ!」

「いいから気にすんなって!」

「あ、じゃあ……」

ぐいっ、と力をくわえて消しゴムを半分に割った。形は汚いけど、消すだけなら何の問題はない。
その片方をヨハンに差し出す。

「これで、はんぶんこだぜ!」

「………ありがとう、十代」

「俺こそありがとな、ヨハン!」

嬉しさでニコニコしながらお礼を言った。ヨハンは本当に優しい!俺の為に消しゴムをくれるだなんて。
この消しゴムは大事にしよう…とこっそり制服の内ポケットにしまった。


その時にちょうどチャイムが鳴って、授業の終わりが告げられた。ようやく少しだけ解放されるのだと思うとホッとする。
席から立ち上がってぐいっと伸びをしてからノートや教科書を整理した。
次は上の教室で、他の学年との合同授業だったはずだ。

「ヨハン、早く行こうぜ!」

「あ……ちょっと先に行っててくれ。俺、トイレ行ってくるからさ」

「そっか!早く来いよー」

「うん、すぐ行くから」

トイレへ向かうヨハンを見送って、俺は次の授業へと向かう。



けどヨハンは、そのまま戻ってこなかった。
その遅さにさすがに心配になってくる。

「うーん…ヨハン遅すぎるぜ…」

「兄貴は心配性ザウルス。何だか意外だドン」

「いや、心配性じゃないと思うぜ…?ただ……」

「ただ?」

「……ヨハンがいないと落ち着かないっていうかさ」

「……ラブラブだドン」

剣山からの言葉に俺は思わず首を傾げた。
……ラブラブ?俺とヨハンが?

手も繋がず、抱きしめあうこともせず、キスもしないことは本当にラブラブだと言えるんだろうか?
たぶんそれだけってわけじゃないけど、何だかスキンシップって奴が無いのは……寂しい。


「でも本当に遅いザウルス……まさか具合が悪くなってトイレで倒れてたり……」

「ちょっと剣山くん、アニキを不安にさせるようなこと言わないでよ!」

「…………ごめん、俺ちょっとヨハンを探してくるぜ」

「え?ちょっとアニキ!」

翔の声を聞かなかったことにして、こっそりと教室を抜け出す。階段を勢いよく降りて、ヨハンの元へと急ぐ。さっきいた教室から一番近いトイレへヨハンは行ったはずだ。
……もしヨハンが倒れてたりしたらどうしよう…。
大丈夫だって思うのにやっぱり心配で、不安で仕方ない。



ようやくヨハンが行ったと思われるトイレに着くと、中から水音がした。水道から水が出る時の特有の音がする。
誰かが手を洗っているらしい。

それはヨハンである可能性が高いけど、でも何だか違う気がした。ばしゃばしゃと立てる音が何だか乱暴な気がしたから。

少しだけ、そーっと覗いてみると、そこには確かに手を洗うヨハンがいた。あの蒼色の髪なら間違いない。

でもその様子は普通じゃなかった。とにかくごしごしと手を洗っていて、ヨハンはとってもつらそうな顔をしていた。初めて見る、顔だった。
その顔に一瞬声を掛けるのを躊躇う。しかし声を掛けねば、と俺は思い切って声を出した。

「ヨ、ハン……?」

意気込んで出した声は僅かに震えていて情けない声になっていた。
そんな声なのにそれを聞いたヨハンはものすごくびっくりした顔をしたあと、泣きそうな顔をする。
それは悪いことをしたのを隠している時に、親に偶然見つかってしまったような。その状況と似ている気がした。

「じゅう、だい……」

「ヨハン……?どうしたんだよ…!」

「ごめん、ごめんっ……見られたなら言うしかないよな……」

「え……?」

「あのな、十代。俺…ずっと言えなかったけど………潔癖症、なんだ…」

「へ?」


ヨハンの言ったことが唐突すぎて、理解出来なかった。潔癖症って……。

「潔癖症ってあれだろ?綺麗じゃないと無理!っていう綺麗好きのことじゃ……」

「その程度ならまだいいんだけどな……」

「何か違うのか?」

どうやら俺とヨハンの言う潔癖症は違うらしい。


「あのさ、十代……最近手を繋ぎたがってただろ?」

「へ……う、うん…」

「無理なんだ。汚くて」

「…………」

「…………」

「えっと……俺の手が?」

「うん」

「………そっか…」

……何だろうこれ、すごくダメージを受けた気がする。汚いって……。

「じゃあ、今手を洗ってたのも……」

「十代、俺の消しゴム使って…その…半分返してくれただろ?」

そしてその消しゴムを受け取ってしまったヨハンは悪寒がして、必死に手洗いをしていたということみたいだ。
さっきの俺の行動はヨハンにとってタブーなことだったらしい。……そういえば渡した時に顔が少しひきつっていた気もする。

「ごめん……恋人なのに。十代のこと、ちゃんと好きなのに……ごめんな」

「ヨハン……」

ヨハンが手を洗っているところを俺に見られた時に泣きそうな顔をしてたのはこのせいなんだろうな、と思った。
俺に対して申し訳ないと思ってたんだ。でもどうしても体が受けつけなくて、それで……。

そう思うと胸の奥の方がズキン、と痛んだ。


「十代……ごめんな」

「ううん、仕方ないぜ!気にすんなよ!」

「……これから、少しずつ治していくから…」

「おう、ヨハンなら大丈夫だぜ!」

「十代……ありがとう……」

ヨハンはさっきの泣きそうな顔からようやくいつもみたいな優しい笑顔を見せてくれた。

……そうだ。ヨハンと決して体で触れ合えなくても心はちゃんと繋がってる。
手を繋げなくても、心をしっかり繋げていれば大丈夫なんだ。


「ああもう、好きだ!!ヨハーン!!!」

「うわぁあああ!!!?」

思わずぎゅうっと勢いよく飛びついてしまって、ヨハンの悲鳴を聞いてから俺は自分のしてしまったことの深刻さを知る。
慌てて離れてみるとヨハンは顔面蒼白で体中に鳥肌を立てていた。何だろう、すげー泣きたい。

「ごめん…!ごめんなヨハン…!」

「ふ、風呂入ってくる!!」

ヨハンはブルー寮に向かって走り出してしまったが、追いかけるわけにも行かず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


ラブラブ、には程遠いみたいだ。























(手を繋げなくても君が好き!)




















あとがき


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