生徒会といっしょ!1
『生徒会長・青柳瑛史』 (志賀・一年の夏頃)
◇
購買部の傍には自販機がある。紙パックの自販機と、缶ジュースの自販機が計三台設置されている。
委員会の業務を終えて寮に帰る前に、喉が渇いたからジュースを買ってこうと思ってちょっと寄った――ら、生徒会長が缶の方の自販機前にいた。
生徒会長はあごに手を当てて一人真剣な顔で何やら悩んでいる。ちょうど夕飯の時間だったせいか、周囲には親衛隊の姿もそれ以外の生徒の姿もない。
薄暗い校舎の中で、会長の姿がぼんやりと浮き上がった。
会長は一言で言うと超男前。アップバングにした黒髪ときりっとした彫りの深い顔立ちは10人中100人が格好イイ抱いてって評するだろう。
ごついわけじゃないがしっかりと筋肉がついている体つきをしてるので、俺と同じ制服なのにやたらとキマって見える。
リーダーシップだかカリスマ性だかわからんが、何故か無条件に従いたくなるような天性のものを備えてると思う。
その証拠に、二年生であるにも関わらず、すでに生徒会長の座に就いているのだ。
逆に、そんな人だから一般生徒の俺はすごく近寄り難く感じる。
ジュースは諦めて寮に戻ろう……そう思ったときだった。会長は買うものを決めたらしく、うんと一人で頷いてボタンを押した。
会長がどんなものを飲むのかちょっと興味が出て、そっと覗き込んだ。
――コーンポタージュ、だった。
いやいや今夏だぞ!?そんなものはないはずだ!自販機のラインナップだって『つめた〜い』ドリンクしかない!
業者が間違えて入れたのかなんなのか、そしてそれを引き当てる会長もすげえ、と思いながら見ていた。
すると会長が「ラッキー!」って感じの顔でニヤッとした。
「ぶふぅっ!」
思わず噴き出してしまうと、会長がこっちを見た。
あ、やべー目が合っちゃった。
「……どうも」
「ああ……たしか監査の志賀、だったか」
「はい」
監査委員として挨拶はしたけどまさか名前まで覚えられてるとは思わずびっくりした。
「……誰にも言うなよ」
「え、どうしてですか?すごいじゃないですか、コーンポタージュ」
「言ったら取られるだろうが。俺のポタージュ」
そう言ってぎゅっとコーンポタージュ缶を胸に抱く会長。
「それつめた〜いですよね」
「冷製スープみたいで得だろう」
なるほど絶対飲みたくない。
冷たかろうがなんだろうがこの真夏にそんなドロッとしたもの、想像するだけでも吐き気がする。
「やらんぞ」
「いらねーよ」
ついダチに言うみたいにそっけなく返してしまうと会長が「傷つきました!」って表情になった。
そしておずおずとポタージュ缶を俺に差し出し、気弱な声を出す。
「……やるよ」
あんまりにも意気消沈してるもんだから、俺はごめんねの気持ちでいっぱいになってしまった。
そしていらないって言ってるのに。
「いりませんって。ラッキーガイの会長が飲んでください」
「……そうか!おう、俺はラッキーガイだからな!」
ラッキーガイの単語がお気に召したようで、会長はルンルン顔でポケットにポタージュ缶をしまった。
すっげー俺様かと思ったらなんなのこの人、ヘタレすぎじゃね?
面倒くさい人だなぁと思いながら紙パックのヨーグルトドリンクのボタンを押した。
その後、会長は「志賀は怖いけどいいヤツだ。怖いけど」と褒めてるのか貶してるのかよく分からない評価を副会長に零したそうだ。
end.
←main