志賀君と大友君


龍哉視点
二人の中等部での初会話。(※出会って間もないので『志賀』呼びです)





俺が中等部に入って同室になったのは志賀理仁というヤツだった。
テレビでもたびたび取り上げられるくらい名前の通ったレストランチェーン。その経営会社である飲食店グループの家の息子なんだとか。
小学校は他県の公立校に通ってたらしくて、それがどうしてこんな僻地の男子校に来たのかと気になってなんとなく聞いてみた。

「ああ俺、学校でハブられてたから」
「……は?」
「同じ学区のヤツらと一緒の中学がイヤだったんだよ」

言葉は辛辣だが話し口調はさらりとしてて、なんでもないことみたいに言う志賀。だから俺も話題の延長線上として深く気にせずに尋ねた。

「ハブられてたって、なんで?」
「あー……俺、小四のとき、学年で一番かわいい子に告られたんだけど」
「……うん?」
「お付き合いっつーか、一緒に登下校するとかそんな感じのことしかしなかったけど、まあ彼女ができたわけですよ」
「……はあ」
「とにかくめちゃくちゃ可愛い子で、そうするとその子のことが好きなヤツもいっぱいいてさ」

小学生で彼女持ちなんて、羨ましい以前に周りが騒がしそうだ。志賀はその男子連中からやっかまれたんだろうな。

「それまで仲良かったヤツもなんかだんだん俺のこと避けはじめて――俺もあの時はアホだったから、悔しかったら彼女作ってみろよ!ってカンジで亀裂が入っちゃったんだよな」
「そうなんだ」
「ま、正直そこまではよかったんだよな。バーカバーカバカって言うほうがバカなんですぅ〜っつって可愛い喧嘩っつーか。でも付き合って二ヶ月くらいした頃だったかな、偶然立ち聞きしちまったんだよ」

よくある小学生の喧嘩話かと思ってたら急に話の筋が予想外の方向へ転がり、俺はどきりとした。

「……その彼女が俺の家のこと知ってて、なんか玉の輿目当てでゲットしちゃった!みたいなことをさ……」
「あー……あぁー……うーん……」

なんて言っていいかわからなくて変な相槌しか打てなかった。

「それで純情な俺は傷ついたわけ。別に俺のこと好きじゃなかったんじゃねーか!って」
「…………」
「で、それ聞いた次の日に『もう別れる』って勢いでその子に言っちゃったんだよな。理由とか言えなくてとにかく別れるってだけ」
「相手の子にとっちゃ最悪だな」
「だよな、今になって俺もそう思う。けどそん時はそこまで考えらんなかったから、いきなりあの子振った!ひとでなし!ってことで噂になっちゃって」

それはまあ志賀も可哀想な気がする。たかがガキの付き合いでそこまで言われる筋合いがない。

「……むしろこえーのはこっからだよ。その元カノがさ、女子も男子も全員味方につけて総シカトはじめてさ」
「おー……」
「それが卒業まで続いたとさ。はい終わり」

あっさり話を締めくくった志賀は、読みかけてた雑誌を開きなおした。

「なんか、ひどい話に聞こえるけどお前はそんな感じしないな。あんま堪えてないっつーか……」
「いやいやすっげえ傷ついたって!だからこうして私立校に来てんだし。でも学校以外の付き合いとかあったから、ハブられたこと自体は言うほど悔しくはなかったかなぁ」
「学校以外の付き合い?」
「俺、ずっとライディングスクール行ってたからそっちのダチが多かったし、学校は居心地悪かったけど寂しいとは思わなかったわ」
「ライディングスクールってモータースポーツの?」
「そうそう。二輪な」

志賀はバイク乗ってたのか。趣味を通して出来た友達の結束が固くて、学校以外での居場所があったのは志賀にとって強みだったろう。
だからハブられてたってわりにそれほど深刻でもないし気安い雰囲気なんだな。

「今でも乗ってんの?バイク」
「や、こっち来る前にやめた。一年位前にコケて骨折っちまって」
「マジかよ。どこ?」
「左腕んとこ。コケた拍子にバイクの下敷きになっちゃってさ。プロテクターつけてたからそんなひどくなかったんだけど、休んでるうちにここの受験とかで忙しくなって全然行かなくなった」

そう言いながら今もちょっと未練がありそうだ。
俺はそんな志賀をじっと見つめた。すると志賀は「なに?」といって照れ笑いをした。そんな笑顔を向けられた俺までなんだか照れる。

「……えっと。ま、まあ、これからよろしく」
「おー?ヨロシク」

俺と志賀は謎の握手を交わして、これから長くなるだろう友人関係を始めたのだった。


end.

←main


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -