××系、俺。


「実は俺、前世の記憶があるんだよ」

俺がそう言うと、目の前にいる敦也が渋い顔をした。

「ふーん……」
「あっ、信じてねーな!?マジだからマジ!」
「悠真って中学生だったっけ」
「患ってねーから中二病!ちゃんと高校生!です!」

必死の訴えに敦也が鼻で笑った。その馬鹿にしたような表情――くそう、むかつく。

「それでここからがすごいところっすよ。この前世、実は敦也と出会ってから思い出したんです!」
「へー……ほー……」
「どんな前世か聞きたい?聞きたいだろ!?」
「どうでもいい」

言葉の通り心底どうでもいいという風に嘆息する敦也。しかし俺の口は止まらない。

「俺は前世でも男で、なんか、中世な時代の外国で鎧着て槍や剣を振ってました!騎士?十字軍?うっはファンタジー!」
「ふぁんたじー……」
「さらにさらに!そんな俺にはとっても仲良しの親友がいたんです!それがっ」

言葉の途中で敦也の手が俺の口を塞いだ。喋ってる途中だったからもがもがと掌に言葉が吸い込まれる。

「あーのさー、それ、今しなきゃいけない話?」
「もが」
「今、俺たち何してるんだっけ?」

笑顔の敦也が手を外す。はいはい、この状況ね。説明しろってか?
敦也の家の敦也の部屋で、ベッドの上で二人で向き合ってますね。向き合ってるっていうか俺の上に上半身裸の敦也君がいますね。
なんつーか押し倒されてますね。いやいやもちろん合意の上で。
こいつの親、今日明日と夫婦水入らずの温泉旅行に行ってるからいないんですよねー!まあ彼氏と彼氏関係の俺たちには絶好のチャンスってわけだ。何って、ナニの。
はぁ、と大げさな溜め息を吐く敦也。

「なんか萎えてきたんだけど」
「うぉぉ待って待って萎えるな!燃え上がれまだいける!立て!勃つんだ敦也のジョー!」
「笑わせんな余計萎える」
「いや……だって緊張すると喋りまくるタイプなんだよ俺……まじすいません……」

初めてのエッチで緊張するなって方が無理だと思う。超思う。ていうか敦也だって童貞のはずだろ、なに余裕ぶっこいてんだ。

「ふーん。俺は緊張すると逆に冷静になるタイプ」
「ほうほうまたひとつダーリンのこと知っちゃったね!惚れ直した!」
「悠真はもうちょっとムードってもんを勉強した方がいいよ」
「敦也君が実施訓練で教えてくれればいいと思います!」

きひひと笑ってみせれば、俺の彼氏は流れるような動作でキスを仕掛けてきた。
友達期間が長かったからキスひとつでもすんげー照れる。かといって友達には今更戻れないし、戻りたいとも思わない。

「あー好きだー、敦也ぁ」
「………………うん」

その長い間はなんだと突っ込みたいところだったけれど、再び敦也のキスで黙らされ、それから何時間も互いの熱を分け合う行為に没頭した。



――『前世系、俺。』








実は俺、奇妙な病気があるんだ。妄想癖っていうのかな。
真っ暗な俺の部屋、俺のベッドの中。隣で眠る悠真の顔を見ながら頭の中を探る。それは記憶なのか、自分の行き過ぎた妄想なのか、よく判らない。

俺と「彼」とは敵だった。
戦争の真っ只中で、俺の国と「彼」の国は長年争っていた。
俺は下位の傭兵で、たまたま母親が「彼」の国からの亡命者だったこともあり、見た目や訛りのない言葉を買われ「彼」の国でスパイもどきをしていた。
とはいえ俺なんか上から何も期待されておらず、ただ市井の噂を拾って来いというだけのつまらない命令だった。
敵国に潜り込み、スパイだと知られたらいつ捕まるかもわからない。それなのに命令内容は本当にどうでもいいようなこと。
つまり、俺のような両国の血が流れる半端者は、いつ敵に処刑されても構わないという事実的な厄介払いだった。だからこそ傭兵のような職にしか就けなかったのだ。
差別のひどい時代だった。そしてそれが当たり前のことであった。

俺は人生を達観し諦めていた。そんな風に腐っていたときに出会ったのが「彼」だった。
「彼」は国の正規軍人で、やはり下位ではあったけれど俺と違って身分の保障された人間だった。腰に立派な剣を佩き、使い込まれた鎧を窮屈そうに着ていた。
酒場で偶然に邂逅した「彼」は実に気さくで、気持ちのいい性格の男だった。「彼」と出会ったことで俺は救われたのだった。

――親友、と呼べる存在だったかもしれない。
俺の方は少し感情が行き過ぎていて、それを分かっていながらそういったものは一時的な感覚でしかないと冷静に抑えつけていた。

「彼」のおかげで随分と価値観が変わったし、また人との関わり方も広がった。
その交友関係の一端で、少し役に立ちそうな情報を掴んだ。定期連絡で上役に伝えると、それは敵国の王家に繋がる実に重大な情報だった。
きっかけは些細だったかもしれない。けれどその情報によって俺は自国での立場を確立し、大手を振って永住できる権利を得た。

しばらくして俺の国が勝利をおさめることで戦争が終結した。かなり有利な条件で俺の国は敵国を服従させるに至ったのだ。そうして属国となった「彼」の国への行き来も容易になった。
数年経っていたけれど、「彼」に会いたくなってあの酒場を訪れた。
しかし酒場はなくなっていた。いや、市街地そのものが様変わりしていた。

スパイ時代に培った技術で情報収集してみれば、俺の与えた情報は真っ先に「彼」と出会った街を壊滅状態に陥らせたのだった。
そのときに、「彼」も命を落としたのだと知った。

ああ、俺が、他でもない俺が「彼」を殺したんだ――。

時代が悪かった。戦争のない時代だったら、同じ国の人間だったら、男と女だったら、剣を握らない子供だったなら、出会わなければ、人でなければ、ああだったら、こうだったら。
何度も考えた。幾通りも仮説を挙げた。呼吸を止めようとした。
最後の方は気が狂って真っ暗になる。

つまりはそういう妄想に、俺は取り憑かれている。前世だ、魂の繋がりだなんて、そんな綺麗なものじゃない。

もう一度悠真を見る。眉尻の下がったあどけない寝顔。
見た目も、性格も違う。でも「そうだ」と俺の中の何かが叫ぶ。
二度と「彼」と離れたりしない。俺の全てを、一生をかけて「彼」を愛し抜いてみせる。俺の罪は親友なんて立場じゃ到底贖えないから。

「……全部、俺の妄想だけどね」

俺の妄想のはずだったのに、悠真がどうして同じようなことを言うんだろう。



――『妄想系、俺。』

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