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「ふ、風俗でバイトしてるって、本当?」

僕が相沢に小声でそう質問すると、彼は少し目を見開いて大きな溜息をついた。

「……細野、それ、誰に聞いた?」
「…………」

僕は答えなかった。僕が黙っていると、彼は再び溜息をついて前髪をくしゃりとかきあげた。

「……バイトなんて、誰でもやってんだろ」
「だけど」
「んなこと聞くためにわざわざ昼休みに俺を拉致ったのかよ」

貴重な睡眠時間だってのに、と相沢が苦々しく吐き捨てる。ひとけのない汗臭い部室に彼を押し込めたのは僕だ。
何も言えない僕に、相沢は三度目の溜息を吐いた。

「誰から聞いたか知らねぇけどな、人に言うなよ」

用事は終わったとばかりにあくびをしながら部室を出て行こうとする相沢に、僕は慌てて声を上げた。

「あ、あのさ、どうしてそんな!」
「……金がほしい、以外に何があるんだ?」

ただの小遣い稼ぎだよ、と軽く言って相沢は部屋を出て行った。





僕と相沢はクラスが違うけど男子バレー部で一緒になった仲だ。僕はいつも補欠だけど相沢は次期エースとして期待されていた。

身長があるわけじゃないけどとにかくジャンプ力に優れていて、スパイクを打ち込む姿が綺麗でかっこよくて僕は相沢のプレーが好きだった。

部活後、相沢が買い物があるからと電車に乗ったのを見て、僕は自分の家に帰るふりをして、彼の後を追った。
どうせ店の名を聞いても彼は教えてくれないだろう。そう思って、僕は相沢の後をつけた。
今日彼が『バイト』に行くのかどうかは賭けだったけれど、ビンゴだったらしい。

学校から電車で乗り換え含めて数駅。だいたい45分ほど離れ、繁華街から少し外れたその場所は、一見普通の居酒屋風の店に見えた。

僕はどうしても知りたかった。『バイト』の話は本当なのか、どうして相沢がよりにもよっていかがわしい店(彼は否定しなかった)を選んだのか。
下世話な好奇心ではあるけど――どんな店なのか。

そうして店の場所を特定したあと、さすがに制服姿だとまずいから私服に着替えて出直してきた。


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