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普通に部活を終えたあとは例の騒いでいた女子たちと写真撮りながら軽く話をした。アドレス聞かれたりするかなーと思ったけどその気配もなく、それで彼女たちの気は済んだみたいだった。
帰りは吉住、勇大、天羽と連れ立って駅まで徒歩で下校。吉住と勇大はバス通で、駅までは一緒だけど駅前に着いたら二人とはお別れだ。

天羽と二人になってから、すぐに電車に乗らないで駅構内でちょっと喋った。
とはいっても駅中に暖房があるわけじゃないし、いい加減寒くなった俺は数十分くらいでギブした。
天羽が話し足りないって顔をしたけど「また明日ね」と俺に向かって小さく手を振り、ホームに続く階段を上っていった。俺は天羽とは逆方向の電車だから、もうひとつのホームに早足で向かった。

家帰ってきて風呂入って、メシ食って、宿題は明日の朝に教室でやればいいから後回しにして、寝る前に最愛彼氏の紘人先輩に電話しようと思っていた――それなのに。

「……寝落ちとか、マジありえない」

先輩に電話をかける前に洵也から着信があって、ノロケ中心に話をしてたらスマホを握り締めながらいつの間にか寝てたらしい。
目覚ましのアラームに驚いて飛び起きたらもう朝だった。
マジでないわ。昨夜は先輩の声聞きたかったのに。
がっくりしながらスマホをチェックする。
マイベストフレンド洵ちゃんから俺が途中で寝ちゃったことに対する文句のメッセが長々と続いてた。

そのあと新着メールをチェックしたら思わず変な声が出た。
なんと、びっくりなことに紘人先輩からもメールが来てましたよ!俺が寝ているうちに届いてたみたい。
『おやすみ、透。』っていうひと言だったけど、いつも俺からメールして、その返信ばっかりだったからこれは地味に嬉しい。
毎日しつこく『おはよう・おやすみメール』を送って習慣にしておいた成果かな?
やばい、朝からニヤけが止まらない。
まだ早朝だからギリギリ登校の先輩に今メール送ったら迷惑だよね。
お返しのおはようラブメールを部活前に送れるよう下書き保存しておいて、朝の用意を始めた。


先輩と会える昼休みが待ち遠しいなぁと思いながら過ごす午前中。
だけど、先輩からのおはよう返信メールに『今日の昼も行かれない』って打ってあって肩を落とした。

昼休みになって教室で弁当を食べてたら、示し合わせたように部活繋がりの友達や顔見知りが代わる代わる俺のところにやって来た。そして揃って昨日の勇大と同じように紘人先輩のことを尋ねてくる。
先輩と日頃仲良くしてる俺に親切なのかなんなのか、聞きたくもない情報まで添えて。
みんなちょっと冷やかし程度にって感じだったけれどすごくイラついた。
俺の機嫌が悪くなったのを察すると慌てて謝ってきた。たぶん俺の反応も楽しむつもりでいたんだろうけど、俺が期待したように笑わないから。





そんな状態が翌日になっても続いた。
そのうえトドメみたいに、紘人先輩と同クラで俺らの理解者であるハセ先輩から『お前ら別れたの?』ってメールが届く始末。

――連休明けの三日連続で、紘人先輩は真田先輩と一緒だったって?昼だけじゃなく、放課後まで?
他人が簡単に入り込めないくらい親密な雰囲気醸し出して、寄り添いながらヒソヒソ話?しかも目撃者多数で同じようなことを言う。

落ち着け、落ち着けって俺。こんなのただの噂じゃん。邪推するほうがおかしい。
真田先輩は外も内も男前で妙な迫力があって目立つ人だし、みんな面白がってるだけだ。紘人先輩にしろ二人とも校内では有名人だから余計さ。
もともと友達同士だし連むくらい変なことじゃない。だからどうってことないんだ。

そうして木曜日は、ムカついては冷静になるっていうのを繰り返しながら放課後になった。
部活が片付けまで全部終わって、着替えをするために部室に移動しようとしたそのとき、高木に大声で呼ばれた。
体育館の入り口付近で手招きする高木のところに行くと、知らない女子がドアの陰にいるのが見えた。

「呼んだー?」
「透、これ俺のクラスの子なんだけどさぁ、なんか話あるんだって」
「あーわかった」

タオルを肩にかけて体育館から出る。外に出ると空はかなり暗くなっていた。
『話』の予想はだいたいついてるから渡り廊下から移動して体育館の裏手側に回った。そこは照明が少ないせいであんまり人も来ない。この子がしたい話にはうってつけなんじゃないかな。

「で、俺に話って?」
「えっと……急にごめんなさい。秋葉君、今付き合ってる人っていないって聞いて……」

うん、予想的中。雰囲気的にそれだと思った。
改めて彼女を見てみれば、黒髪ボブの清楚系でスレンダーな背の高い子だった。綺麗めの顔立ちで真面目そうに見える。

「んーと……それで?」
「私、帰りの電車が秋葉君と一緒になること多くて、それでちょっといいなって思ってて……。あの、今すぐじゃなくていいから考えてくれませんか?あっ、ていうか名前言ってなかったですよね。私――」
「ごめん。悪いんだけど」

彼女の名前を聞く前に遮った。

「……俺、他に好きな人いるから、そういうのは考えらんない」

目の前の彼女が息を呑んだ気配がした。
俺らしくないずいぶんと冷たい言い方になったと思う。
いつもならもうちょっとうまい断り方ができるはずなのに、今はどうしても無理だった。

好きな人に告白をするのってすごく勇気のいることだってわかってる。
俺だって紘人先輩に告ったときは怖かった。その瞬間はほとんど勢い任せだったけど、そのあと先輩からOKをもらうまでの間は苦しかった。挙げ句に暴走気味に馬鹿なことやってあの人を傷つけて、どれだけ悩んだかわからない。
だから断るときは極力傷つけないよう、できるだけ禍根を残さないようにしてきたのに。


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