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碧翔は自分の下着も脱ぎ去ると、軟膏の容器を手にとって中身をたっぷりと掬った。
粘度の高いそれが俺の穴に塗りつけられる。軟膏が体温で溶けて、俺の体液と混ざり合った。

「う……」
「お兄さんのここ、ぬるぬる。楽に入りそうだよ」

楽しそうに言った碧翔は指をゆっくり入れてきた。そんな行為をするとは思ってなかったから、異物感に尻の穴が窄んだ。
中で指がぬめぬめと動く。変な感じがしてしきりに体をひねったりねじったりした。
落ち着きのない俺に焦れたのか、碧翔が俺の唇をキスで塞いだ。舌が絡むとキスのほうに意識が向いて、碧翔の指をおとなしく受け入れられた。

「んぅ、ふ、ぅ」
「ん……ごめんねお兄さん。お兄さんがエロすぎるから、僕もう無理……」

碧翔がキスをやめて体を起こすと同時に異物感が去った。
けれど間を置かず、さらに足を広げられ、蕩けた尻穴に勃起の先っぽが押し付けられた。
待ちきれないというように先端がめりこんでくる。内部の圧迫感が増してだらだらと汗が滴り、今までにない苦しさで呻き声が漏れた。

「んっ!んーっ……!」
「あ……すご……」

恍惚とした吐息を碧翔が零す。俺は苦しくても彼は気持ちいいらしい。そう思ったら、なんだか、大丈夫なような気がした。
徐々に、でも確実に碧翔が俺の中に入ってくる。熱くて硬く反り返ったそれが。

「僕が入ってるの、わかる?」
「ぅ、ん、んんっ」

聞かれて、こくこくと頷いた。繋がった部分が広げられて、隙間なんてないくらい碧翔でいっぱいだ。
目を開けたら視界が涙で滲んでいて、碧翔の姿がぼやけた。
昨日みたいに迷子になった気持ちで彼の腕を引き寄せる。碧翔の腕の中に閉じ込められると安堵で目が潤み、必死で彼に抱きついた。

「あお、と……っ」
「八年前から思ってたけど、お兄さんって、ほんと可愛い……」
「う、あっ、あっ!」

独り言みたいにつぶやいた碧翔が下から突き上げてきた。
抱き合ったまま揺さぶられる。密着した肌から伝わる体温とか、彼の重みだとか汗の匂いとか、そういうのが全部愛おしく思えた。
抜き差しされるたびに、今まで感じたことのない強烈な感覚が駆け抜けた。背筋が痺れて、怖いくらいの官能が走る。

「ん、ん、お兄さんの中、気持ちいいよ」
「俺も、き、きもちい、あ、あおっ、碧翔っ」

朦朧とする視界に青い光が映る。碧翔のピアスだ。すぐそこにある彼の耳に食いついて、ピアスに舌を這わせた。
覆い被さる身体がビクッと揺れる。そのあと艶かしく喉で笑う声が俺に直接響いた。
間近で視線がぶつかって、どちらともなくキスをした。そうして舌を甘く噛み、溢れる唾液を混ぜ合う。
汗と、蚊取り線香と、畳と、夜風の香りがする――ああ、夏の匂いだ。

「碧翔、のこと、すき……なんだけど、俺」

昨日の今日で変かな。理由とか、どういうところがとか考えつかなくて、ただそのひと言にまとめることしか出来ない。
でも、あの不思議な体験と秘密を共有した碧翔ならわかってくれるんじゃないかと思った。
繋がったまま緩慢に体を起こした碧翔は、「どうしてこのタイミングで言うかなぁ」と呆れたように言った。その首筋が、真っ赤に染まっていた。

「あのね、お兄さんより僕のほうが、絶対大好きだからね」

そこ張り合うとこ?言われるまでもなく八年分の彼となんて比べようもないけど。
何か言おうと開いた俺の口から、「ぅあっ」と甲高い声が上がった。碧翔が勃起を奥までねじ込んできたからだ。
腰を抱え上げられ、碧翔が猛り狂ったようにガンガンと突いてくる。それに合わせて結合部からぐちゅぐちゅと粘ついた音がした。

「あっあっ!あっ、くっ、あ、碧翔……ぉっ」
「こんな、セックスんときじゃなくて、あとで、っん、ちゃんと言ってよね、僕のこと好きって」
「いっ、言う、言うからぁ、あぁっ!」

息荒くおねだりされて、真っ白になった頭で無我夢中で頷いた。
萎れてた俺のちんこがいつの間にか復活していて、先端の敏感な部分を碧翔の指でグリッと押されたら反射的に射精した。
中も、外の刺激も気持ちよすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「っは……僕、もう出そう……お兄さんの中で、出したい。ね、いいよね?」
「い、いいよ、ぅんっ、あっ、あっ!碧翔、あっ!」
「んんっ!」

小刻みに腰を叩きつけられたと思ったら、中に勢い良く熱いものが迸った。そうされると自分の意思とは無関係にビクビクと体が跳ねてしまう。
俺の腰を掴んで奥までがっちり繋がったまま、碧翔は最後の一滴まで注いでるみたいだった。
そのまましばらく激しく呼吸を繰り返していた彼だったが、やがて大きく息を吐いて、俺にまた覆い被さってきた。
言葉もなくお互いに抱き合う。
同時に碧翔が抜け出ていった穴からとろりと精液が伝って、それを惜しむようにそこがキュッと窄まった。

そうして静けさを取り戻した部屋の中に、虫の輪唱がこだました。





「――俺ちょっと考えたんだけど」

風呂場で汗を流して、畳に敷いた布団の上で横並びになって碧翔と他愛のない話をした。
尻がひりひりするから俺はうつぶせ、碧翔は横向きで。
ちなみに俺は今ノーパンだ。洗った下着が乾くまでこの状態でいるしかない。
Tシャツとハーフパンツを碧翔から借りたけど、彼は面白がって俺の無防備な尻をしつこく撫でてくる。やめてほしい。

「ん?なに?」
「昨日……ってかそっちは八年前だけど、あのとき、実はバス停んとこの祠の主が俺らを引き合わせてくれたのかなーって」

そう言うと碧翔が首を傾げた。

「どうかな。僕もあの祠のいわれとか知らないし……バス停ができるずっと前からあって、地主の家が管理してるってことだけしか。たぶん土地神様ってやつ?」
「そうなんだ。俺さ、あのときマジで喉渇いて死にそうだったから、碧翔が来てくれて助かったんだよな」
「へぇ?じゃあ縁結びだね」
「明日、あの祠に花でもお供えに行こうかな」
「いいね。一緒に行こうよ。バスは待たないで、僕の車でね。あ、それと夜は隣町で花火大会があるから見に行こう」

碧翔とともにあの坂を上って、そして一緒に帰ってくる。
それから花火を見て、この静かな家で夜を過ごす。たくさんの言葉と体を重ねながら。

「お兄さん、もうさ、このままここに住んじゃえば?」
「いや気が早ぇよ」

言い返しつつ、それもいいな、と内心満更でもなく頬が緩む。
将来の確約がわりに、笑いながら碧翔にキスをした。


end.


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