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一学期最終週、木曜になった。本日は今学期最後の行事、クラスマッチの日だ。

クラスマッチは夏と冬の学期末に年間計二回行われる。
体育祭は全学年混合の対抗戦だったが、今回は学年別クラス対抗の球技大会だ。
そしてもうひとつの違いはというと、体育祭は生徒会主導の催しで、クラスマッチは授業の一環ってことだ。

授業だから内容もいたってシンプル。
夏の種目はバレー、バスケ、ソフトボール。この三種目に分かれてクラス同士で競う勝ち上がり戦。対戦の組み合わせはくじ引きで決める。
学園の運動施設自体は広いがさすがに全学年同時は無理なんで、昨日が一年生、今日は二年生の実施日だ。
試合のない学年は審判の補佐やスコア記録、怪我人のケアや熱中症対策係などなど裏方仕事に徹する。
三年生だけは昨日が予選って形になっていて、そこで勝ち上がったクラスが今日決勝という日程になってる。
優勝したクラスは表彰式で賞状とトロフィーの授与、そして校内新聞に載る程度。
――が、このクラスマッチ後にはお楽しみが待っている。

「あっ……ぢぃぃぃ!」

青空に向かって思わず叫んだ。なのに俺の叫びは空しく、セミの鳴き声にあっけなくかき消された。
俺は今、じりじりと焼けるグラウンドで汗をダラダラ流しながらベンチに座っている。
参加競技はソフトボール。ただいまC組と試合中だ。

毎年違う競技を選ばなくちゃいけないってことで、俺は去年バレーを選択したから今年はバスケにしようと思ってた。
ところが希望者多数でじゃんけんして負けちまった。
体育館の暑さもヤバいけど屋外の暑さはそれとはまた別のヤバさだ。照りつける日差しがじりじりと痛い。

「大丈夫か?理仁」
「おー……」

同じくソフトボール要員の龍哉が俺の目の前に紙コップを突き出してきた。
コップの中身はスポーツドリンク。適宜水分を取るようにとグラウンド端に設置されてるジャグタンクから俺の分も注いできてくれた。
暑さでへろへろな声で礼を言いつつ受け取って、さっそく一気飲みした。薄めだが冷えててうまい。めっちゃ生き返る。
龍哉も隣に座って同じものを飲みはじめた。

「なぁ理仁。これ終わったら見に行くの?テニス」
「あーテニス……」

そう、このクラスマッチには実はもうひとつ球技が存在する。Sクラス用のテニスだ。
なんせSクラスは他より人数が少ないから団体競技ができない。
ついでにいうと個々の身体能力もずば抜けていて他と勝負にならない。A組が本気出せば善戦できるかもってくらい。
だからSのやつらはクラス内で個人戦をして、勝った一人が優勝者として表彰される。

「……うーん、テニスな……」
「行けばいいじゃん、応援」

龍哉と逆の隣から千歳の声が上がった。千歳の手には自前の特大スポドリカップとうちわが握られている。
なんでA組のこいつがうちのクラスのベンチにいるかっていうと、千歳のチームの試合時間じゃないからだ。
同じ競技選んで対戦しよーぜって話してたのに、俺と龍哉がまさかのソフトボールになっちゃったもんだから千歳と競技時間がずれてしまった。
こういうときクラスが違うと不便だよなぁ。
バスケはA組が順調に勝ち上がっていて優勝候補だって聞いてる。うちのクラスはそんなAと初戦でぶちあたって早々に敗退した。

千歳のうちわからパタパタと風を送られたが、そのぬるい微風で暑さが増した。
龍哉も千歳も俺に口々言ってるのは、あれだ、天佑の試合を見に行くんだろ?って確認だ。

「応援ったってなぁ……」

去年は同室のよしみであいつの応援に行った。うちのクラスは二回戦でE組に負けたから時間も余ってたし。
そのときの光景を思い出して苦笑いがこみ上げる。あれはマジですごかった。
テニスコートの両サイドに観戦席が並べられ、その席にはランクが設けられていた。
最前列は当然のように親衛隊が陣取り、その他は予約制だった。予約にあぶれた生徒はうしろのほうやフェンスの外から立ち見。俺はもちろん立ち見だった。

去年の決勝は仁科天佑VS後藤楓磨戦で大盛り上がりだった。親衛隊の応援的に。
親衛隊はこういうときの応援の練習も欠かさないらしくて、ビビるくらい見事な統率力だった。
そうして熱戦の末、優勝者は後藤になった。
終わったあと天佑はヘラヘラして「疲れたぁ〜、後藤ちゃんつよーい」とか言ってたけど、あれは完全に途中で飽きて本気でやってなかった顔だった。

「……別に、見に来いとか言われてねーし」
「そんなのさぁ、言わなくても絶対来てくれるって思ってるからじゃねえの?」
「そこまで考えてねーだろ」
「なにお前ら、ケンカ?」

龍哉から怪訝そうに言われて、半笑いで首を振る。
ケンカなんかしちゃいない。俺のほうが、ただなんとなく気が進まないだけだ。
あれは親衛隊がはりきる場だし、行ったら行ったでそういうのを差し置いて特別扱いされそうでイヤだった。向こうも気まずいに違いない。
それに心情的に今は色々と少し微妙で、そこが足が鈍る一番の理由だ。

「してねーって、ケンカとか。でもまあ……うん、あとでちょっと顔出しとくわ」
「俺も行くよ」
「俺も俺も!」
「いやいいから、一人で行くし」

龍哉と千歳がいたんじゃ余計目立つだろーが。萱野に気を遣わせたくない俺の繊細さを察しろ。
そのとき、俺のクラスのバッターがファーストゴロでアウトになった。
今どんな流れだっけ、と試合内容を思い出してたら龍哉が俺を横から小突いた。

「理仁、次」
「あ、俺の番か」

空になった紙コップを龍哉に取られたから、首にかけてたタオルもついでに預けてベンチから立ち上がった。

「打てよ理仁ー」
「りっちゃーん、俺を甲子園に連れてってー」
「おー任せとけー」

龍哉と千歳から雑な声援を送られたんで、ヘルメットを被りながら適当に返す。つーか千歳は敵クラスのくせになに仲間ヅラしてんだ。
今までの練習で安打ゼロな俺に期待するヤツは誰もいない。
今んとこツーアウト同点、走者なし。
ただの授業でこの炎天下のなか頑張ろうって気にはなんねえし、正直早いとこ終わらせて校舎で涼みたい。
きっとみんなそう思ってる。よし、気楽に振ろう。

――と、そんな風にノンキに構えてたはずだったのに、俺はこの打席で二遊間を抜くいい当たりを出してしまった。
これが一点差となって、俺のクラスは残念ながら勝ち進む結果になってしまった。


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