トゥース×ヒック | ナノ

僕の最愛の相棒


見つけた。
ついに、見つけてしまった。
ーーナイト・ヒューリー
もし出くわしたら、隠れてひたすら祈るのみ、と言われてるドラゴン。

なんて、なんて綺麗なんだろう。
こうして昼間にドラゴンを見るのは初めてだからかもしれない。
僕は目の前の美しい漆黒の鱗のドラゴンに唯々、目を奪われていた。

今までドラゴンを倒すことばかり考えていたけど、僕はこのドラゴンをーー殺せない。
殺したくない。
そう、思ってしまった。
ああ、僕はバイキング失格だ。
ごめん……父さん。

僕は、僕の罠にかかって、地面に失墜したナイト・ヒューリーに静かに近づいていった。
僕が近づくと、横たわって目を閉じていたナイト・ヒューリーが目を開ける。
ああ、なんて美しい瞳なんだろう。
黄金に輝くその瞳に魅入られる。

「ごめんね。あなたをこうしてしまったのは僕なんだ……本当にごめん」

僕は、この美しいドラゴンに目線を合わせるように跪き、謝った。
謝って許されるわけじゃないし、そもそも僕の言ってることが伝わってるのかさえ分からない。
それでも、どうしても口にせずにはいられなかった。

彼は僕を鋭い眼差しで睨んでる。
ああ……やっぱり怒ってる。
当たり前、だよね。
僕が悪いって分かってるけど、やっぱりそんな目で見られると傷ついた。
こんなに胸が締め付けられて苦しくなったのは初めてだった。

「ごめんね。今すぐ、この網から解放してあげるからね」

僕は足に付けていたナイフを手に取った。
途端、彼は僕を睨みながら唸り声を上げる。

「待って。怖がらないで。僕は君を傷つけない」

じっと彼を見つめながらそう言った僕は、その網を切った。
縄が緩み、彼が解放された途端、僕は首を締め付けられ、岩に押さえつけられる。

「うっ、ぐっ……ごめんね。本当にっ、ごめん」

僕は息が上手く出来ないことよりも、殺されるかもしれないことよりも、何より彼に嫌われたくなくて、必死だった。
彼の目をじっと見つめ、ひたすら謝っていると、彼は僕の首を抑えていた前足を離し、僕を押し倒す。

「グウォオォオォオッッ!!」

「ま、待って!行かないで!」

至近距離で思いっきり吠えた彼は、僕から離れ、去っていった。
彼の後を急いで追いかけるが、途中で木の幹に躓き、彼を見失ってしまう。
地面から起き上がった僕は、もう彼に会えないかもしれないと絶望した。

「っ……うっ…ひっ…くっ……」

僕は涙をポロポロと零しながら、重い足取りで帰路に着いた。
悲しくて、悲しくて、次から次へと涙が止まらない。
何がいけなかったのか、どうしたら良かったのか、考えては自分を責めた。

「おお!待ってたぞヒック!明日からドラゴン訓練だ!」

「え、」

「頑張るんだぞヒック」

「ちょっ、待ってよ、父さん!父さんってば!」

帰ってきて父さんに言われた言葉に唖然とする。
あれだけやりたいと思っていたドラゴン訓練が、今はもう嫌で仕方がない。
殺すなんて無理だ、嫌だ。
もう、僕はーードラゴンを殺せない。





『ドラゴンは常に、常に命を狙ってくる』

ドラゴン訓練の時に言ったゲップの言葉に、どうして彼は僕を殺さなかったんだろうと疑問を抱いた。
ーーどうして?
僕の足は、自然とあの森に向かっていた。

彼と出逢った場所よりもさらに奥。
そこで周りを囲まれた小さな湖を見つけた。
ふと落ちている漆黒の鱗にハッとする。
もしかして、この近くに?

「あっ、」

ーー見つけた。
彼はその場から飛ぼうとしているが、何故か上手く飛べていない。
一体どうしたのだろう?
じっと観察していると、彼の尻尾が左側だけ欠けているのに気付く。

まさか……あの時?
気付いた事実に愕然としていると、僕は音を立ててしまい、彼に気付かれてしまう。
じっと警戒するように、その美しい瞳に見つめられ、再会できた嬉しさから言葉を無くした。





明くる日、僕は魚を持ってあの場所に向かっていた。
彼が上手く餌を取れていなかったから、あのままじゃ餓死してしまうと思ったから。
また会えると思うと、僕の心臓の鼓動は朝からドクドクと煩い。
僕は早足で森を抜け、再び湖を訪れた。

ーーあれ?いない。
あの美しい彼がいないことに落胆する。
せっかく会いに来たのに。
もしかしたらと思い、魚を放り投げてみる。
けれど彼は現れない。
それなら彼が姿を表すまで此処にいようと足を進めると、後ろに気配を感じた。
振り返ると、そこにはあのナイト・ヒューリーがいた。

「……あの、えっと」

緊張して上手く話せない。
そんな僕をよそに彼は僕に近づく。
僕は手に持った魚を差し出す。
途端、パアッと目を輝かせ、耳をピンと立たせる彼にキュンとする。

ーーか、可愛い。
だが、ハッとした彼は警戒したように後ろへ下がる。
もしかしたら罠だと思われてるのかも。
僕は身につけていたナイフを手にする。
グルルと唸る彼から目を離さず、僕はそのナイフを地面に落とし、足で湖に放り投げた。
そして、もう一度彼に魚を差し出す。

「あれ?歯がない……」

不思議に思ってると、その隙に彼は鋭い歯を出し、僕から魚を奪い取った。
魚を食べ終わった彼は僕に近づいてくる。

「ごめんね。もう魚はないんだ。もっと持って来れば良かったね」

失敗した。
お腹を空かせてるんだから一匹じゃ足りるわけない。
よく考えれば分かることなのに、また会えると浮かれていた僕は気付かなかった。

どんどん近寄ってくる彼にドキドキして、後ろに下がる。
こんなに至近距離で平静を保てるわけなかった。
トンと背中が岩に当たる。

「えっと、その……少し近いかなって」

そんなに近づかないで。
心臓が破裂しそうだ。
そんな僕にお構いなく近づいてきた彼は、唐突に口から魚を半分出すと僕の膝にのせた。

「えっと……?」

ピンと耳を立て、鋭い眼差しを愛嬌のある丸い瞳に変え、後ろ足で立ち上がるナイト・ヒューリー。
首を傾げ、その目は半分になった魚と僕を見てる。
まるで僕に「あげる。食べて」って言ってるみたいだ。

嬉しくて、僕は生魚なんか食べられないのに戸惑いなく一口齧った。
不思議だ。今まで食べてきたどんなものより美味しく感じる。

「美味しいよ。ありがとう。残りは、あなたが食べて?」

お腹を空かせてるはずなのに、こうして僕に魚をくれる彼に心がポカポカした。
なんて優しいのだろうか。
僕は残った魚を差し出した。
嬉しそうに魚を食べる彼を見つめながら、僕はふと魔が差し、彼に触ろうとする。

途端に怒ったように離れていった彼にしょんぼりする。
勇気を振り絞って、また彼に近づく。
顔を背け、羽で顔を隠す彼にもう一度触ろうとするも、バレてしまい誤魔化した。

少しでも彼といたくて、彼から少し離れて彼の様子を伺う。
木の上にまるで蝙蝠のように逆さにぶら下がる彼を観察しながら、彼の顔を地面に書いていた。
不意に気配を感じて、隣を見るといつの間にか彼がそこにいた。

いきなりのことに一気に脈拍が上がる。
平常心を装い、そのまま絵を描いていると、彼は木の枝を口に咥えて絵を描き始めた。
ビックリして楽しそうに絵を描く彼を見てると、まるでどう?良い出来でしょ?とでもいうように満足そうな彼を見て、笑みが浮かんだ。

「ふふっ……上手だね」

だが、彼の絵を間違えて踏んでしまうと彼は耳を低くし、目つきを鋭くさせ怒る。
そこから足を離すとピンと耳を立て、目をクリンと可愛くなる。
その様子を見て、絵を踏まないように避けながら足を進めると、いつの間にか彼の隣にまで近づいていた。

僕と彼は至近距離で見つめ合う。
もう一度触れようとするとやっぱり嫌がられ、僕は顔を背け、手だけを彼に近付けた。
恐る恐る手を前に出し、あと少しのところで止めるとピタリと何かが手に当たる。

「!」

ひんやりと冷たくて硬い。
どうしよう。
すごく嬉しい。
彼が僕に触れてくれた。
ただ、それだけのことがたまらく嬉しかった。
僕はそっと顔を戻す。
目を瞑って僕の手に触れていた彼が目を開け、目が合うと去っていった。

「あっ、」

去っていった彼に寂しくなりながらも、僕は右手を見つめ、先ほどの光景を思い出す。
じわじわと湧き上がる嬉しさを噛み締めながら僕はその場をあとにした。





『飛べなければ逃げられやせん。飛べないドラゴンは死んだも同然』

その事実を突きつけられ、僕は凍りつく。
ーー僕のせいだ。僕のせいで彼は飛べない。僕が彼を殺したんだ。
全身から血の気が引き、手が震える。
僕は膝を抱え、頬を濡らした。
どうしよう。どうしたら。
いつの間にか僕の思考は彼をもう一度飛び立たせることに向かっていた。
ーー失ったのなら作るまで。
僕は夢中になって作り、完成させた。






「たくさん食べてねトゥース」

嬉しそうに魚をたくさん食べてるトゥースをよそに、僕はトゥースの背後へと回る。
動く尻尾を捕まえて、なんとか羽を取り付ける。

「え、トゥース!?」

だか、それを嫌がったトゥースが飛び立ち、僕を払い落とそうとする。
振り落とされまいとしがみつき、作った羽を操作する。
上手くトゥースが飛べるのを見て、嬉しくなった。

「トゥース!これで空が飛べるよ!」

僕はトゥースに勢いよく抱きついた。
トゥースは事態を理解したらしく嬉しそうに鳴いた。
そんなトゥースの背をかくように撫で、顎を撫でた。
ゴロンと気持ちよさそうに転がるトゥース。
可愛くて仕方がなくて、僕は飽きるまでトゥースを愛でた。
トゥースとの距離が近いことに幸せを感じる僕だった。

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -