▼ それぞれのバレンタイン
【オビトの場合】
正月が終わるとすぐに街中はバレンタインの雰囲気に包まれた。
少女たちは意中の相手に何をあげようかと真剣に悩み始める。
手作りチョコで彼のハートをゲットする?
それともお洒落なラッピングに包まれた高級チョコがいいかしら?
彼は甘い者が嫌いだからチョコじゃなくて手作りプレゼントの方がいいかも。
彼女たちは年に一度のこの日のために全力を注ぐ。
なぜなら告白する勇気が持てない彼女たちの背中を押してくれる特別な日なのだから。
一方、貰う側である少年たちの反応はいくつかに分かれる。
女子から人気のある少年は毎年山のようにもらうチョコにバレンタインが始まる前から憂鬱な気分で、毎年母親以外からチョコを貰ったことがない少年は誰でもいいから今年こそは!と祈る。
まだまだ色恋沙汰に興味がない者はただ食い意地が張ってるだけで、逆に意中の女の子がいる者はその日が近づくにつれて、そわそわと落ち着きを無くしていた。
そして、ここにも一人バレンタインを心待ちにしている者がいた。
なぜならそれはーーーー。
2月14日に近付くにつれて街全体がどこか浮き足立ち、それに釣られてオレはこの数日そわそわと落ち着きがなかった。
果たして彼女からチョコが貰えるだろうか、と一人ベッドの上で悶々としていたら昨夜は結局寝付けず。その証拠に目の下に薄っすらとクマが出来てしまった。
ーーコンコン
早朝、玄関の扉をノックする音に昨夜は一睡もできなかったオレの機嫌は最悪だった。
「誰?」
こんな朝っぱらから一体誰だ、と内心悪態をつきながら扉の向こうの相手に無愛想に問いかける。
「あっ、こんな朝早くにごめんねオビト。……えっと、リンです」
まさか相手が彼女だとは思ってもみなかったオレはあわあわとテンパってしまう。
「は?え?リンッ!?ってうわああああ!!」
焦ったオレは足元に落ちていた脱ぎっぱなしの服を踏んづけて、ドスンと大きな音を立てて尻餅をついてしまう。
仮にも忍者だというのに、こんな情けないところをリンに見られずに済んでホッと息を吐く。
「どうしたのオビト!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫だから!」
リンの心配する声をバックにオレは猛スピードで着替えると、さっと鏡の前で身だしなみをチェックする。
寝癖のついた状態でパジャマのまま外に出たら絶対リンに幻滅される!
別にそれぐらいで彼女は幻滅したりしないのだが、パニクってるオレがそんなことに気付けるわけもなく。
ーーガチャ
「リンっ、待たせてごめ……ーーッ!」
扉を開けると私服姿のリンが佇んでいた。
いつもは腰まで下ろした黒髪を緩く二つ結びにして、首元に白いファーのついた膝丈まである白いコートと、薄っすら肌が透けた黒いタイツに黒のショートブーツ。
普段と違う女の子らしい装いにドキドキしてしまう。どこを見たらいいのか分からず、キョロキョロと視線が定まらない。
「ううん。それよりさっき部屋の中で叫んでたけど本当に大丈夫?」
「あ、ああ。全然平気!気にしなくて大丈夫だから!」
「そう?なら良かった」
ふわりと優しく微笑むリンに目を奪われる。ああ、やっぱり今日もリンは可愛い。
「……それとこんな朝早くにごめんね。実はこれをオビトに渡しに来たの」
オレはリンに手渡された紙袋をドキドキしながら受け取った。
中身が何なのか非常に気になるが、変に期待して全然関係のないものだったらと思うと躊躇してしまう。
「……あのさ、開けてみてもいい?」
だが、やっぱり誘惑には勝てなかった。
「うん」
にっこりと頷くリンの前でオレはそっと紙袋を開けて中を覗いた。
入っていたのは透明のラッピングに包まれた色鮮やかなマフラーだった。
ふとオレはそのマフラーにタグがついてないことに気付く。
も、もしかして……。
「あのさ……これって、その……リンが?」
「う、うん。オビトには一番お世話になったから何か手の込んだものがいいかなって思ったんだけど、彼女でもないのに嫌、だった?」
眉を下げて不安そうなリンにオレは慌てて否定する。
「ぜ、全然!むしろオレ、マフラー持ってなかったからさ、すっげー嬉しい!ありがとなリン!」
中には手作りを嫌がる奴もいるらしいがそいつの気が知れない。
手間暇かけて一生懸命作ったものを喜びこそすれ、重いだとか迷惑だなんて思うわけがない。
それが好きな子からなら尚更。
むしろ手編みのマフラーを貰えるとは思ってもいなかったからめちゃくちゃ感動している。
「なら良かった」
どこかホッとしたように胸を撫で下ろすリンを見て、オレは早速そのマフラーを首に巻いて見せた。
途端にリンは嬉しそうな顔になり、オレも嬉しくなる。
このマフラー、一生大事にしよう。
「でもせっかくリンが編んでくれたのに使うのが勿体無い気もするなあ」
「くすくす……変なオビト。大丈夫、もしそのマフラーがダメになったらまた編んであげるから」
「え?ホントに?」
「うん。だからそのマフラーは使って?」
「おう!」
オレはリンが一生懸命編んだマフラーに顔を埋める。仄かにリンの匂いがしてなんだかムラムラした。
いつかこのマフラーが擦り切れる頃には、今度は恋人としてリンにマフラーを編んでもらいたいな。
なんて夢見てたオレは、まさか数年後にそれが現実のものになるなんて夢にも思わなかった。
【マダラの場合】※念のためR-15
キングサイズのベッドの上に一人の男が裸で寝ていた。
不意に男の手が何かを探すように動くが、目当てのモノがないことに気付くと閉じていた瞼がゆっくりと開く。
「ーー姉上?」
ベッドの上に姉の姿がいないことに気付いたマダラは、いつもなら俺が起きるまで待っているのに俺を置いて何処へ行ったのかと気分を害する。
目覚めた時に一番最初に目にするのは愛しい彼女じゃなきゃ嫌だというのに。
仕方なく着物を羽織ったマダラは姉を探しに行こうとするが不意に視界に何かが映り、自然と上を向く。
「……なんだこれは」
赤やピンク、白色のハートのモビールが天井にいくつも吊るされていた。
まるで部屋に雨が降ってるようだと唖然としていると、そこに何かが書いてあることに気付いて思わず手にとる。
『あなたなしでは生きていけないの』
見覚えのある綺麗な字で書かれたその言葉に息を呑む。その意味を理解した瞬間、体がぞくぞくと震えた。
もしかすると他にもあるのでは?と期待して辺りを見回すと、
『私は永遠にあなたのもの』
『息ができないくらいあなたが好きよ』
『私にとってあなたが全てなの』
十数枚以上あるその全てに情熱的な言葉が書き込まれていた。
普段あまり姉が口にしない言葉の数々にマダラは激しく胸を打たれる。姉が自分のことを痛いほど想ってることが伝わってきた。
そのことに感動していると、
「起きてたのね……マダラ」
男物の白いYシャツ一枚だけを纏った姉がそう言って寝室に現れる。
袖を腕のところまで捲り、お尻がすっぽりと隠れる丈のせいで白くて滑らかな脚が剥き出しになっていた。
それだけじゃない。
上のボタン二つが開けてあり、剥き出しの谷間がそこから見えていた。
昨夜の情事を否が応でも思い出させる格好にマダラはつい舐めるように姉の全身を見てしまう。
「っ……ああ。それよりこれは一体?」
「ふふ……今日はバレンタインだから」
「そう、か。なるほどな」
「驚いた?」
「ああ、あまりにも情熱的なんでな」
そのまま無防備に近づいてきた姉を抱き寄せてムチっとしたお尻を撫でようとするが、その手を彼女に阻まれてしまう。
「もう……今はダメ」
「何故だ。姉上が煽って来たんだろう?」
「その前にマダラにあげたいものがあるの」
「……なんだ?」
「はい。これ」
先ほどから姉の手にあった長方形の黒い箱をマダラは彼女から手渡される。
開けてみると姉が作ったと思われるトリュフがいくつも並んでいた。
「ブランデーを多めに入れたから甘さも控えめになってるはずよ」
箱の中から一つ取り出したマダラはそれを自分が食べるのではなく、姉の口元に持っていった。
「?」
「口移しで食べさせてくれ」
「なっ、」
その言葉に赤くなる姉だが一歩も引かないマダラを見て、しばらくすると観念したのかゆっくりと口を開いた。
姉の口の中にチョコを放り込むとマダラはすぐ後ろにあるベッドの縁に腰掛ける。
その上に姉は自ら跨るとマダラの首に腕を回して彼の唇に自分の唇を重ね合わせた。
「ん」
溶け始めたチョコが姉の口からマダラの方に移り、ほろ苦い味が口内に広がった。
そのまま離れていこうとする姉の後頭部を離れないように押さえつける。
「んんっ」
身じろぐことなどお構いなしにチョコまみれの舌を強引に絡ませた。
熱い舌に溶かされたチョコがドロドロになって口内に溢れ出す。
「はあ、はあ……っ」
唇を離した途端、息を切らしたように肩で息をする姉は、お酒のせいもあって目が潤み頬は赤らんでいた。
姉の唇から垂れたチョコをペロッと舐めとると、シャツの上から主張する胸をやんわり揉んだ。
「んっ」
僅かに入っている酒のせいで敏感に感じているのだろう。マダラの肩に頭を置いてなんとか息を整えて体を鎮めようとしているようだった。
マダラは先ほど中断された続きとばかりに姉の身体を弄る。
散々マダラを煽ってしまった彼女は、マダラの体力が尽きるまでベッドの上で啼かされ続けるのだった。
あとがき
侑香様。
リクエストして下さりどうもありがとうございます。UPしたのがバレンタインを過ぎてしまったことと、UP自体が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
『リン成り代わりでバレンタイン話』とのことでマダラとオビト両パターンにしてみました。気に入っていただけると幸いです。これからも当サイトをよろしくお願いします。
管理人紫苑
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