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 その瞳に映るのは誰?





 オレは姉さんが好きだ。
 姉として、そして一人の女として……。






 物心ついた時にはすでに家族は姉さんとオレの二人だけだった。

 オレたちはうちは一族として生まれた。
 姉さんは昔から何故かうちは一族の長老を始めとした、ある一定の年齢を超えた者たちから可愛がられていた。

 むしろあれは姉さんを神であるかのように崇めていた。
 大の大人がこぞって孫ほど年の離れた少女にへりくだるさまは、明らかに異常な光景だというのに誰もそれを疑問に思っていないようだった。

 普通ならば姉ばかりが気にかけられれば姉に対していい感情を抱かないはずだが、オレは姉に育てられたようなものだったし、むしろ母のように慕う姉を取られたようで面白くなかった。

 それに彼らと話す時の姉さんはいつも何かに耐えて辛そうだった。
 だからそのことにいつまで経っても気付かずに姉さんを無遠慮に傷つける彼等が嫌いで仕方がなかった。





 そんなオレでも姉さんを嫌いなところが一つだけある。

ーーそれはオレを誰かと重ねて見ている時だ。

 その時の姉さんはいつも切なそうにオレを見つめる。
 それはまるで誰かに恋焦がれているかのようで、普段オレを見る時とは明らかに違っていた。
 いつも穏やかで優しい姉がその時だけは女の顔になる。

 一体どこの誰と重ねているのかオレは知らない。
 だって姉さんは一度も誰かのものになったことがないのだから。

 別に姉さんがモテないとかじゃない。むしろ姉さんはどこへ行っても注目の的だ。姉さんが通るだけで男たちは立ち止まり、姉さんを振り返る。

 今まで姉さんに近付いてきた男は沢山いた。何度か姉さんに関する噂を耳にしたこともあったし、オレと仲良くすることで姉さんに近付こうとする者もいた。

 けれども姉さんは一度だって彼等を受け入れたことなんてなかった。

ーーそう。ただの一度も。

 だから姉さんは彼等にとって高嶺の花で、その花言葉から今じゃコマクサ姫なんて呼び名がついてしまったほど。
 誰にも靡かない彼女を口説き落とすのは一体誰か?なんて男たちの間で囁かれているのをオレは知っている。

 姉に恋する身としては、決して男に媚びないその姿は好ましくもあるけれど、その心はすでに誰かのものだと気付いているオレは一体どうしたらいいのだろうか。


ーーなあ、姉さんはオレを通して、一体誰を見てるんだ?













 真夜中。
 ふと目が覚めたオレは隣にいるはずの姉さんがいないことに気が付いた。不思議に思ったオレはベッドから降り、辺りを見回す。すると部屋の片隅で床に座り込む姉さんを見つけた。

「ーー姉さん?」

 オレの呼びかけに何も反応しない姉さんを訝しく思ったオレは姉さんに近付く。

 そこには虚空を見つめ、目からとめどない涙を流す姉さんがいた。
 まるで何かに絶望し、心が壊れてしまったような弱々しい姉の姿にオレは言葉もなく唖然としていた。
 すぐにハッと我に返り、姉さんの肩を鷲掴む。

「っ、姉さん……姉さんっ……姉さんッ!」

 声が届いたのだろう。宙を彷徨っていた姉さんと目が合う。だがオレは気付いてしまう。

ーーああ、またあの目だ。

 そう思うオレをよそに大輪の花が咲いたように姉さんは綻ぶ。姉さんは息を呑むオレの首に腕を回すと、まるで睦言を交わすように、

「あいたかったわ……まだら」

 うっとりとオレの耳元で囁いた。
 動揺するオレとは正反対に、まるで離れたくないというようにその柔らかい身体を押し付け、ぎゅっとオレにしがみつく姉さん。
 オレ以外の男の名を愛おしそうに呼ぶ姉さんの姿に耐え切れず、オレは姉さんの身体を突き飛ばした。

「……まだら?」

 不安そうに目を揺らす姉さんを苦々しく見つめながら、今の姉さんの目にはオレが映ってないことに胸が押しつぶされそうになる。

「オレはマダラじゃないッ!」

「ーーーーッ」

 吐き捨てた言葉に姉さんは目を限界まで見開くとその目を絶望に染め上げた。

「いやよ……いや……おいていかないで……おねがい。まだらがいないと……わたし……どうしたら……っ」

 ボロボロと涙をこぼす姉さんの姿が痛々しくて、オレは自然と錯乱する姉さんの頭を撫でていた。
 そこでやっとオレを認識したのだろう。姉さんは縋るようにオレを見上げ。

「…………おび、と?」

「そうだよ姉さん」

「あのね……わたし、なくしちゃったの。だいじなもの。それがないと、いきてるのがつらくて、くるしいの。……もうやだよ……おねがい……ひとりにしないで……まだら……」

 今まで抑えていた感情が爆発したかのように子供みたいに、わんわんと声をあげて泣く姉さん。
 一人にしないで、と叫ぶ姉さんに愛おしさがこみ上げてくる。その気持ちのまま姉さんを包み込むように抱きしめた。

「大丈夫。もう姉さんは一人じゃない」

 いつか姉さんがしてくれたように姉さんの背中をポンポンと優しく叩いた。

「オレが姉さんを一人にしない。ずっと姉さんの側にいるから。ーーだからオレと生きよう、姉さん」

「もう……ひとりにしない?」

「ああ。約束する」

「……ん、やくそく」

 オレの言葉にホッとしたようで姉さんは甘えるようにオレに擦り寄った。
 普段の姉さんからは想像出来ない姿にいつものオレなら顔を赤くするところだが、それよりもオレは姉さんの口から出た「マダラ」という男が気になってしょうがなかった。

 姉さんの心を占めていた男。
 いつまでもその男を忘れることなく、その男を想い涙する姉さんも、姉さんを置いていなくなったというその男も全てが気に食わなかった。

 なあ姉さん。
 オレはさ、好きな人がいつまでも他の男を想ってるのを許せるタイプじゃないんだ。
 そいつの代わりでもいいとかさ。そんな都合の良い奴になってあげるつもりなんてない。

 オレの全ては、姉さんにあげる。
 だから姉さんの全てはオレにちょうだい。


◇◆◇◆◇


あとがき
深雪様。リクエストどうもありがとうございます。「リン成り代わりではなくオビトの姉として転生したらのif話」とのことですが、ご要望に応えられたか些か不安ですが私なりに書いてみました。

夢主は記憶あり。創設期に生きたうちはの人々は夢主=マダラの姉だと知っています。夢主は今でもマダラを愛していて、でももうこの世にいないことを知っているので思い出す度に胸が張り裂けるそうになる。しかもオビトがマダラに似て(?)いるので重ねちゃいけないのにオビトにマダラを重ねちゃいます。この場合、オビトはリンではなく夢主に恋します。この後オビトは夢主をベタベタに甘やかして、自分に依存させちゃうんじゃないかなー。もし夢主が本編のようにマダラに再会したら三人の関係は本編よりもドロ沼になりそう。

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