十五番目さんより

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「うぅ〜……。教授ったら、何処に行っちゃったんだろ……」
私、立氷維咲(タチヒ イサキ)は、小雨が降り注ぐ中、大学の教授であり、想い人である、千影誠十郎(チカゲ セイジュウロウ)を探していた。 私が周りの景色に見とれていた隙に、教授は何処かへ行ってしまったのだ。
景色というのは、この緑が多い島の事だ。教授が一応はデートという名目でここに連れてきてくれたのだが、私は知らない所だ。日本の某所であるかも疑う。
私は溜め息をつきながら、赤い傘を少し回して足を進めた。
「う〜ん。でも、探した方がいいのかな? それとも、じっとしてればいいのかな…?」
携帯を使えばいいのだろうが、さっきから連絡が取れないのだ。教授の事だ、ボーッと海でも眺めていそうである。
「待てやぁぁ!!」
「………!!?」
後ろから大声が聞こえ、私は振り返った。すると、私の視界を、一瞬にして何か生暖かい物が覆う。フニフニと、女子ならモフモフしかねない感触がなんとも絶妙。しかし、苦しい。私は首に傘を挟んで、それを顔から引き剥がした。
「う…?」
「…………? ………???」
な、なんだ。この、なんともマヌケな面をした生き物は。親い動物は、豚だろうか。白くてフニフニして、都会でチヤホヤされそうなユルさ。これは是非とも枕元に飾りたい。
「お前は一体……」
「この爆弾魔ぁ!!」
いきなり取り上げられた。取り上げた人物は、その白い豚の頬を引っ張り、険しい顔でそれを叱りつける。
「なんであそこで逃げるんだ! 臆病なのは知ってたけど、あそこで逃げたらお前を連れてる意味九割なくなるだろぉ!」
なんとも勇ましい女の子であった。
歳はおそらく、十代後半。ゴーグルに、赤いヘアバンドで黒髪を掻き上げており、カーキのマフラーを巻いている。青い瞳がなんとも綺麗だ。黒いノースリーブと前腕を超す長い手袋の僅かな間から、色白い肌が見え、足元は幅の広いズボンを穿いている。格好からして、日本では通じない様だ。そして、その背中に担いでいるスコップが、どうも気になる。
「…あ、あの……」
「って…あ……」
少女は険しい顔を解き、私を見た。手はまだ白い豚をしめているが。
「…ペット?」
「…あ、あぁ、まぁ、そんなところ…」
人見知りか。やけにおどおどしている。
「か、可愛いね」
「ダイナマイト並みに爆発するけど…?」



聞きたくない事実の前に、疑う言葉が真顔の少女の口から飛び出した。私は一応、「すごいね」と返す。
「あ……」
気付けば少女は、この雨の中ずぶ濡れではないか。私は傘の半分を少女の頭上に翳す。
「……?」
顔も濡れている。私は少女と顔を合わせるようにしゃがみ、持っていたタオルハンカチで顔を拭いてあげる。幸い、まだ一回も使っていない。潔癖性でもこれならまだ安心。
「風邪引いちゃうよ? 髪もびしょびしょだし……。あなた、この雨の中一体何を…?」
少女は顔を逸らす。言いたくないのか。だが、こんな女の子がこんな格好で一人でいるのはおかしい。連れはいないのか。
「……し、仕事…」
「お仕事…?」
うちの経済状況が良くないのか。こんな若い内から仕事とは。私なんて実況動画を見て、遊んで飲みに明け暮れる学生生活を送っているというのに。
しかし、スコップを担いでいるのを見ると、何かを掘っていたのだろうか。
「…仕事……。発掘の仕事だよ……」
「発掘…? 鉱物とか…?」
「うん…」
「あなた、一人…?」
「いや、専属の……あれ…?」
少女は静かな自分の後ろを伺う。
「…………」
「はぐれた…?」
「そのようだ…」
再度白い豚を睨む。
「おい、今度役に立たなかったら焼いて食うから覚悟しろよ……」
震えてらっしゃる。白い身体が更に青白くなって、少女の眼力にやられて、今にも気絶しそうだ。
「じ、じゃぁ、私と同じだね」
「え……」
「私も、連れの人と、はぐれちゃって…」
情けなく笑って見せた。少女は「そう」と呟く。
「良かったら、名前聞いてもいい…?」
思い切って言ってみた。ついでにその白い豚を抱き締めたい。
「サノ……」
「サノちゃんかぁ。素敵な名前。私は維咲」
「イサキ……。あ、で、こいつが、ぶーたん…」
またなんと、ユルさ半端ない名前なんだろうか。
「ね、ねぇ、サノちゃん。良かったらその子、もう一回抱かせてくれない…?」
「芸なんてないぞ?」
そう言うと、ぐでんとなっている、ぶーたんを差し出す。私はその大福餅のような身体を抱き締めた。
「キャー、気持ちいい〜」
本気で枕元に飾りたい。これは癖になる。何処かに売っていないのだろうか。
「サノちゃん、連れって言ってたけど、連絡はつかないの?」
「つかない。というか、今探してる最中だったんだが……」
「宛があるの…?」
「ないから、目撃情報を聞いてる」
私は辺りを見渡した。が、人は一人もいない。サノちゃんが来た向こうには、人がいたのか。いや、私もサノちゃんと同じ方向からきたが、人などいなかった。あるのは巨樹、つまりは自然。が、念のため聞いてみた。
「誰か人を見かけたの?」
「いや」
即答だった。では、誰から聞いたというのだ。まさかサノちゃん、何処かの有名アニメーション映画の主人公如く、木や虫の声を聞けるとでもいうのか。いや、そんなメルヘンチックな話があるわけがない。
「雨の声を聞いてるんだ。私の連れで、モヤシみたいな頭した、見てると五分後に殴りたくなるような顔してる奴、知らないかって。今、目撃情報を辿ってきて……」
そんなメルヘンチックな話があった。
まさかの雨ときたか。天候が雨の日に限られるとはいえ、この状況には打ってつけのスキルじゃないか。あと、連れの扱いが酷すぎる。
いや、私も人の視界が奪えるスキルを有した時期があったから、然程驚かない。
「す、すごいねサノちゃん! え、それで、現時点の連れの人が何処にいるか解ったの?」
「まぁ、何処にでもいるような、ペラッペラの顔してるから、そいつの可能性は五分五分だな……」
「あ、あのさ、良かったら、なんだけど…。私の連れの人の場所、聞き出してもらえない…?」
暫しの沈黙。サノちゃんは傘を退けて再び雨に顔を濡らす。
「……特徴は…?」
サノちゃんが呟く。
「特徴を教えて。見つかるかは解らないけど……。やれるだけは…」
「い、いいの…?」
「イサキのおかげで、ぶーたんが止まったんだ。そのお礼」
サノちゃん、君はなんていい子なんだ。私は教授の顔を思い浮かべる。
「長身で黒髪、目は藍色。黒のテーラードジャケットを着ててストールを巻いてて、傘を差してるなら、色はカーキ……」
するとサノちゃんは復唱するように、雨に聞いてくれた。




「……お…」
腰かけていた屋根つきベンチで、サノちゃんが耳を傾ける。
「……あんのモヤシぃ…!!」
そしていきなり怒り始めた。私は、どうしたのと聞き返した。
「なんか、イサキの連れの人と一緒にいる……っぽい」
「は……?」
「なんか、イサキの連れが雨の中、ボーッと景色を眺めていて、そこにうちの連れが………」
なるほど。私の勘は当たっていた。
「大学の、先生なんだ」
「ダイガク…? 先生って、何か教えてもらってるのか?」
「そうだねぇ。勉強を教えてもらってる」
サノちゃんは少し黙ると、何か考える顔をした。
「……うちのモヤシ…。あぁ、セタっていうんだけど…。セタは移動の時、世話になってる」
「移動…? は、運び屋みたいな?」
「パイロットだよ」
なんと、パイロットとは。サノちゃんは発掘の仕事と言っていたが、パイロットまで雇うとは、すごい規模が大きいらしい。
「元軍人の」
この子は私をどれだけ驚かせれば気が済むのだ。なんか私が今まで、小さい世界にいたような気がしてならない。年下であろうサノちゃんに、色々越された気がする。
「イサキ……?」
私が顔を下に下げていると、私が提げていた鞄が目に入る。開けてみると、中には携帯と、糖分摂取用にと持っているチョコがあった。
「サノちゃん」
私はその一粒を差し出した。
「良かったら、食べる…?」
「食べる!」
この子、いつか悪い大人についていかないか心配だ。
「美味しい!」
あ、可愛い。ぶーたん諸共一緒にテイクアウトされてくれないだろうか。
「……あ…」
私が空を見上げると、サノちゃんも見上げる。
「止んだ……っぽいね…」




「…立氷……?」
「いた! 教授!」
サノちゃんの言った道筋に辿っていくと、そこには教授と、もう一人、青年がいた。
色素の薄い髪に、赤い瞳。頭にはゴーグルをつけて、肌は少し焼けている。着崩している服は、大分くたびれていた。
「サノ! お前今まで何処で!」
「煩いわ、このモヤシ!! また排泄物にあだ名戻すぞ!!」
「待てやぁ! 排泄物は勘弁しろや! まだ28円の値がつく方がいい!!」
セタと呼ばれた人は、サノちゃんに似て元気そうな人だ。
「立氷、あの子は…?」
「サノちゃんです。途中で素敵な出会いを……」
「それ、サノちゃんじゃなくて、抱いてる妙ちきりんな大福の方じゃないのか…?」
「そ、そんな事ありません!」
「私はどうも女子の守備範囲が解らない。あれは良くて、うちのネズミは駄目なのか?」
「か、考えさせて下さい…」
あのパンダネズミは少し。中身が綿ならいいんだが。
「…イサキ」
サノちゃんの方を向くと、サノちゃんはセタさんと取っ組み合いながらこちらを見ていた。
「その人が連れの…キョージュ…?」
すると教授は小さく頭を下げた。
「千影誠十郎です。うちの立氷がお世話になりました」
「う、うちの…!?」
「いや、セージューローさんも、うちのモヤシがお世話になりました」
「いつまでモヤシ呼ばわりなんだよ俺は!!」
「じゃぁ、28円の価値もなくなる排泄物に戻してやろうか」
「どんだけあの事根に持ってんだよ!!」
「ほら、行くぞ」
セタさんの首根っこを引っ掴むと、ズルズルと引きずっていく。
「イサキ、ありがと!」
手を振ってくれた。
「サノちゃんもありがと! 『またね』!」




「立氷……」
「はい?」
「何を話したんだ…?」
「……えっと…」


「…今日は、いい天気だね、と」
「…………?」









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よっこコメント

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すっごいのもらっちまったぜ←
うちにはない、小説です!!
動くサノちゃんです!!セタもぶーたんも動いてます!!
自分では小説が書けず、キャラを動かすことができないので、本当にありがたいです、十五番目さん!
わたし自身、小説として書き起された我が子たちを見て、かなり楽しんでいました
しかも大好きな維咲ちゃんまで出演してくれて…!!

挿絵描くはずが漫画になった…


 


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