そして彼女は街を去る

去年はこんな感じだった。

「おーいナマエー!降りてこいよ、梨狩りで取ってきた梨あるぜ!」

マグナの大声で起こされた私は寝ぼけ目をこすりながらも階段を降りる。梨?梨って今旬だったっけ?

「ほらよ、剥いてやった」
「あー、ありがとう」

出てきたのはほんとに梨だったので、珍しいなと思ったが一口かぶり付く。

「!?」
「ギャハハハ!!今日はエイプリルフールだぜ?なーに騙されてやんの!」

ナマエが食べたのは、梨のようにカットされた"大根"だった。

「こっ、コノヤロー!!」
「痛ええええ」

腹が立ったので耳を思いっ切り引っ張ってやった。悔しい。

「ちょっとアンタたち!何やってんの?もう任務に出掛ける時間よ!」

バネッサがナマエとマグナに言った。もう彼女は着替えている。

「!やべっ」

二人して慌てて急いで服を着替えに行く。秒で戻って来れば、そこには下着姿のバネッサがいた。

「な、なんでまた下着になってるの!?」
「二人共アホね、今日はエイプリルフールでしょ?任務なんて元からないのよ!さあ酒持って来い酒ー!!」
「クッソーー!!」

バネッサは昼から呑むつもりだ。数分後にはもう出来上がっているだろう。

「ま、まただ・・」


それからその日一日中団員にからかわれた。
私は一度も嘘をつけなかった。だから、今年は暴牛のみんなに盛大に嘘をついてやるんだから!!!

***

「私、暴牛やめます」
「あ?」

私が今年選んだ嘘はこれだ。そしてついでにもう一つ、ヤミ団長に言いたいことがあった。

「最後になるのでもう言います。・・・私、団長の事が好きです」

ヤミ団長それを聞くとぽかんとした表情になった。狐につままれた顔って、きっとこんな感じなんだろうな。

「今までありがとうございました。じゃ」

振り向かず、ヤミ団長に背を向けて歩き出す。

「おい」

あ、引き止めてくれるんだ。ちょっと嬉しいな。

「エイプリルフールって、午後に嘘ついちゃ駄目なの知ってる?」
「は?」

思わず振り返ってヤミ団長を見てしまった。これバレたやん。

「・・・っていう嘘ですよね?」
「いや、ちげーけど」

ヤミ団長は嘘を言っているように見えなかった。え、これマジなの?

「えーと・・、」
「お前、普通に嘘ついただろ。罰金な」
「ちょっと!!」

さっきのシリアスな空気はどこへやら。私は嘘をつくのが下手なのか?

「あとな、嘘は一日一回までだ」
「それは流石に知ってますよ・・」
「じゃあ、さっきの好きだっつーのはホントなのか?」
「あ・・・」

しまった盛大に墓穴を掘った。

「俺は今から嘘をつく」

ヤミ団長は煙草を灰皿に押し付けて消した。

「お前が好きじゃねえ。お前に惚れてなんかいねぇ」
「え・・・」

嘘ってことは、それってつまり・・・

「そういうことだから。お前もう二度と抜けるなんて言うんじゃねえよ。割とビビったからな」

ヤミ団長は髪の毛をくしゃくしゃとやりながらこういった。私は知っている。頭をかくとき、ヤミ団長は照れているのだと。


ああもう、抜けられる訳、ないじゃないですか。


タイトル詐欺です

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