白の傘

(現パロ)

***

今年は運良くホワイトクリスマス。実家が豪雪地帯だというナマエにとっては雪の降るクリスマスなんて珍しくないかもしれないが。

「きれい」

ナマエの言葉は白い息となって消えた。それでも、彼女が今綺麗だといったイルミネーションの光は煌々と煌めいている。

通り過ぎて行く人々はみんなカップル。おれたちもその一部だ。
さっきからナマエはイルミネーションに夢中でおれの方を少しも見ようとしないのが少し嫌だ。
おれは、人工的な景色には少しも感動出来ない。それを言うなら自然の作る景色でも感動出来ない。なのにそれを見て心奪われているナマエは、なんて純粋な心を持っているのだろうか。

邪魔になるからと、人混みでは傘はさせないのでナマエの頭には雪が積もっている。それをほろってやると、ナマエもおれの肩に積もっていたのをほろってくれた。ナマエの長い睫毛にもついた雪を見て、少しときめきを覚えた。

おれは未だに何故ナマエが自分を選んでくれたのかがわからない。無口だし無愛想だという自覚もある。それでも世界で一番ナマエのことを好きなのはおれだ、と言い切れる。
ナマエがいる限り、おれは強くなれる。隣にいれば、安らかな気持ちになれる。それを、幸せって言うんじゃない、と妹が言っていたのを思い出した。

「はぁ・・・」

あまりにも綺麗なのか、思わずナマエが感嘆のため息を漏らすほどだ。一方のおれは無反応だ。いや、隣のナマエに緊張して、イルミネーションどころではないというのもある。

「・・・綺麗だな」

心にもないことを言った。そうだね、とナマエがやっとこちらを見たのでおれはナマエに釘付けになった。
ふと、ナマエの口元に目が行った。艶めくリップクリームが街の明かりを反射して、一瞬カラフルなドーナツに見えた。

あァ、キスしてェ。

その美味しそうな唇にかぶりついてみたい。味わってみたい。
だがカタクリはまだ一度もキスというものを経験したことがない。それは己の口のこともあって、むしろ避けていた行為だった。

ナマエなら。おれの口を受け入れてくれるかもしれない。でももし受け入れてくれなかったらどうなるだろう。

そんなことをぐるぐる考えていたが、次第にチラチラとナマエの口元を見てしまう。
雰囲気だ。今の雰囲気をなんとかすれば、ナマエもそういう気分になってくれるだろう。


くしゅん。この世で一番可愛いくしゃみが聞こえた。寒いのかもしれない。カタクリはマフラーを取って巻いてやった。ちゃんとマスクもしているので、口が見えることもない。

「ありがとう」

ぶわっと、一気に熱が集まった。マフラーを取ってちょうどいいくらいだ。その位、ナマエのありがとうはおれを熱くさせる。
もう、口なんてどうでもいいから、この熱に任せて、男らしくナマエを強く抱き寄せて、マフラーを引っぺがしてキスしてしまいたい。キスをして、力いっぱい抱きしめたい。そうして、これからは会うたびに唇を重ねて、「苦しいよう」って言われるくらい、ぎゅうっと抱きしめたい。それだけだ。

「カタクリも寒いでしょ?」

ナマエはマフラーを半分おれの首にかけた。満足そうだ。
マフラーは二人分の長さはないから、必然的に距離は近くなる。このままキスするのは自然な流れじゃないのか。キスだって、したいと思う気持ちだけで恋人の唇を奪うことは可能なはずだし、それが普通なんだろう。けれども、ナマエが万が一傷ついてしまって、取り返しのつかない後悔を抱えさせてしまうかもしれないと思うと、キス一つがとてつもない難題になってしまうのだ。

歩いているうち、徐々に人の波が減っていく。そして雪も段々と強くなる。ナマエが持っていた傘を出した。そういえば、"相合い傘はね、背の高いほうが持つのが礼儀よ"と妹たちが言っていたのを思い出し、無言でナマエから傘を受け取る。ナマエもそっと、おれの傘を持つ方の手に手を添えた。
ナマエの傘は、内側が宇宙柄になっている。プラネタリウムいらずだね、とナマエは言っていた。折りたたみ傘のくせに、割と深くおれたちを包み込む。

どこに向かっているかなんて多分二人共わかっていないのだろうが、構わず進んでいく。彼女の肩に手を回して、守るようにしながら歩いた。こんなこと、晴れの日には出来やしない。
向こうにチカチカ点滅する青信号が見えた。もう間に合わないだろう。信号で待たされるのは嫌いだが、その分ナマエとの時間が増えるので、ゆっくり歩くようにしている。

「ねえ」

信号待ちで、名前を呼ばれてそちらに意識を向ければ、マフラーを下げたナマエの顔があった。
ナマエは背伸びをするが、それでも背の高いおれには届かなかったので少しジャンプをしておれの頬にキスを落とした。

「・・ほっぺでごめん」

息の根が止まりそうになるほど驚愕して、ナマエを見た。ナマエはというと、霜焼けでもしたのかというほどに耳が赤い。
呼吸と鼓動が荒くなり、ずっとナマエを見つめていた。

ナマエには全部お見通しだったのかもしれない。おれがキスをしたいことも、しようとしていたことも。
肩に手を添えた。目を逸らさない。顔を寄せていく。
おれは、おれの唇は、ナマエの桃のような柔らかくて甘い唇に優しく、けど、ちょっと長くキスをして、抱きしめた。
ナマエはおれの背中に手を回して包み返してくれて、おれの胸の中で優しくありがとう、とつぶやいた。



ナマエを抱きしめながらずっとそうしていると、黒かったはずの傘は、いつの間にか白い雪で覆われていた。

"ほろう"って、方言なんですね・・・。しれっと使ってごめんなさい。払うの意味です。てか、唇がドーナツに見えるとか今更無理あると思ってしまった。とにかく、メリー・クリスマスカタクリさん!!

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