それはたえがたい癒しになろう

「ハッピーハロウィイーン!!!」
「はい、お菓子」
「おおおお!」

今日は10月31日。街はカボチャで溢れている。ここ、紅蓮の獅子王のアジトも例外では無かった。

昨日からお菓子づくりに没頭していた私の前に、団長の弟、レオポルドが現れた。会うなりお菓子を要求するものだから、レオくらいの男の子はみんな食欲旺盛なんだな、とおばさん的思考回路になりつつある自分を残念に思った。まだ二十代なのに。

「レオは?お菓子」
「そんなものは持っていないぞ」
「じゃあ、悪戯だね!!」

すかさず私はマジックペンを取り出し、レオの顔に落書きした。仮にも王族だが、ヴァーミリオン家なら今日くらい大目に見てくれるだろう。

「わわっ!」
「じゃーん。猫。」

持っていた鏡をレオに渡すと、レオは自分の顔を見て大きな声で笑った。

「これは面白いな!よし、兄上にも見せよう。レイアも来い!」
「ちょっと!」

グイグイ引っ張られ、ついに団長室の前まで来てしまった。

「今、執務中だよ・・・」
「兄上も、レイアが来たら喜ぶはずだ」
「そ、そお?」

レオは躊躇なくドアを勢いよく開けた。

「・・・、レオ、入るときはノックするんだ」
「すみません兄上!でも今日はハロウィンです!見て下さいこの顔、レイアに悪戯されました!」

ハロウィンだからといって何でも許されるわけじゃないのだが、とぼやきながらレオを見たフエゴレオン様。フッ、と笑った。コメントしづらそうだ。そして私と今日初めて目が合う。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

おはよういただきました。これでもう頑張れる。

「ハッピーハロウィン。どうぞ、糖分補給にでも」
「ああ、助かる」

一応上司だから、トリック・オア・トリートなんて言えない。言いたいけどね?

「レオ。今日はもうすぐ任務があるだろう。その落書きを落としてから行くんだぞ」
「はっ!そうでした!今すぐ準備してきます!」

レオは猛スピードで走って出ていった。忙しい少年だ。
レオがいなくなると、二人きりの少し気まずい空気が間を流れた。
もう用事も無いし、部屋を出ていこうとするとフエゴレオン様が口を開いた。

「ところでレイア、他に言うことは?」
「え?昨日の書類に何か不備でもありましたか?確かに寝不足で最近誤字脱字が多いんですよね・・・。」
「いや、違う」

フエゴレオン様がいたずらっぽく笑う。あ、これは。

「トリック・オア・トリート?」

正解だったようだ。

「だが今は生憎お菓子が無い。悪戯で許してくれるか」
「え?いいんですか?」

レイアはおもむろにマジックペンを取り出した。だが当のフエゴレオン様はペンを見るとムッとした顔になった。

「恋人同士じゃないんですから。甘い悪戯なんてありませんよ!」

そう言うや否や、レイアはフエゴレオンの顔に落書きを開始した。

「わー、結構難しいですね」

レイアがチャレンジしているのはライオン。紅蓮の獅子王団長の彼にはやっぱり獅子が相応しい。
でも、もう一つ、挑戦してみた。

「・・・終わったか」

げんなりとした顔でこちらを見上げた団長。かっこいい。

「出来ましたよ!」

と、フエゴレオン様に鏡を渡して、レイアは逃げた。

「おい!どこへ行く!」

諦めて鏡を見ると、黒く落書きされた自分の顔が写っていた。だが、右の頬に、下手な字で文字が書かれていた。

鏡に写すと、それは「好き」と読めた。


ああ、してやられた。とフエゴレオンは思った。顔がピンク色に染まってゆく。
この文字だけは残しておこうかと、残りの落書きを落としに洗面所に向かったのだった。

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