シンデレラ・シンドローム

私のバカヤロー!!こんな大事なときに・・・!!

レイアはゴホゴホと咳をしながら自分を呪った。

明日は島中が祝うシャーロット家次男・三男・四男の誕生日。なのに私は風邪をひいた。このまま無理にお祝いに行ったとしても、プレゼント出来るのは風邪のウイルスだけ。

「ブリュレ・・・。誕生日おめでとうございますって伝えておいてね・・・」
「レイア・・。わかったわ」

特大の、素材にもこだわり抜いた最高のドーナツを!作って食べてもらおうと思ったのに。今日仕込みのはずが、こんな体では到底作れそうにない。

「行きたかった~~」
「また来年よ」

ブリュレは私を看病してくれていた。なんて優しいんだ。

「風邪うつっちゃうからもう帰ったほうがいいよ。」
「わかった。風邪、早く直しなさいよ!カタクリお兄ちゃんもきっと心配するわ」

最後まで心配してくれたブリュレは、鏡から帰った。
___カタクリ様が私を心配?もしそうだったらいいのに。ただの一パティシエールである私のためにそんなこと思わないことくらい知っている。

そんな悲しいことを考えていたら、なんだかまた熱が上がってきたように感じた。
今日はもう寝よう。もし明日熱が下がってたら行こう。
レイアは泥のような眠りに押し流された。




「41.0度・・・。」

大人になってからこんな高熱は初めてだ。これではとてもお祝いに行けない。
でも。ドーナツが大好きなカタクリ様は絶対に誕生日ドーナツを楽しみにしてくれているはず!

「よし・・・!頑張れレイア、やればできる子!多分!」

悲鳴を上げる体を無視して、レイアは厨房に立った。

「やってやる!・・・ケホ」

レイアは気合でドーナツ作りを開始した。
________

「カタクリお兄ちゃん、お誕生日おめでとう!!」
「あァ、ありがとう」

今日は三つ子の誕生日11月25日。島中がお祝いムードに包まれている。
カタクリ・オーブン・ダイフクは下の兄弟たちからプレゼント(殆どがお菓子の類だった)を山のようにもらった。


オーブンもダイフクも、貰ったお菓子をその場でたらふく食べている。しかしカタクリにはそれが出来ない。
美味しそうなお菓子の山を見ていると、ファーの下で勝手に涎がたれそうになる。あのお菓子なんか絶対に美味しい。

そういえば、レイアを見かけない。誕生日には特製のドーナツを作ると宣言していたのに。
レイアはカタクリの専属パティシエールだ。ドーナツを作るとなれば、この島で彼女の右に出る者はいない。彼女のドーナツは、想像を絶した旨さである。一度食べてしまえば、もう他のドーナツは食べられない。しかもママのお墨付きだ。

「お兄ちゃん、レイアだけど今風邪を引いててね。今日は来られないみたい」
「そうか」

風邪ならドーナツは作れていないだろう。残念だ。
カタクリは、姿の見えない自分の専属パティシエールを少し寂しく思った。

『私、カタクリ様の誕生日にはとびきり美味しいドーナツ作りますから!』
『待ってて下さいね!』


「・・・・ブリュレ」
「なあに?」
「今からおれをレイアのもとへ連れて行くことはできるか」

________

42.0度。完全に悪化している。ほんとに命の危険があるレベル。

「うーん・・・」

カタクリ様、ドーナツ喜んでくれるかな。



「レイア」

あれ?おかしいな。幻覚?熱せん妄?ここにはいないはずの今日の主役の一人が私の部屋にいる。
ああ、わかった。これは夢だ。

「カタクリ様・・・・?」
「大丈夫か」
「いいえ・・・。でもドーナツは出来ました」

夢の中のカタクリ様と会話している。私ったらほんとに幸せな頭してるな。

「今は元気じゃないから味も落ちてるし酵母菌の代わりに風邪菌が練り込まれてるから食べないほうがいいです」

結局無理に作ったはいいが自分の納得行くものは作れなかった。



「それでも構わない。お前の作るドーナツはどれも美味い」
「カタクリ様・・・!嬉しいです。パティシエール人生で一番。死ぬなら今がいいですね」
「それはだめだ。お前の他に、おれの満足するドーナツを作れる奴はいねェ」

嬉しい!レイアは涙が止まらなくなった。でもこれは夢の中。カタクリ様が言ってることは全部私の願望なんだろう。

「ドーナツは、厨房に置いてあります」
「そうか・・・。お前はもう寝ていろ。疲れただろう」

カタクリは林檎のように火照っているレイアの頬に触れた。

「最後にカタクリ様・・・・。お誕生日おめでとうございます」
「あァ。・・ありがとう」

レイアは簡単に眠りの世界へ引き込まれた。

__________

「夢じゃ、無かった。」

朝起きて、厨房を覗いてみるとそこには空っぽのドーナツの皿。

じゃあ、カタクリ様が言っていたことは全部ホント?

レイアは諸手を上げて喜んだ。家をスキップでまわった。さっきから鼻歌が止まらない。

「カタクリ様大好き!!」

ぼフッと布団に飛び込んだ。丁度良く鏡からブリュレが現れる。

「レイア、アンタ意外に元気そうね。あんなに酷かったのに。一日寝たら治ったの?」
「風邪は、多分治ったの」

レイアは顔に沢山花を咲かせ、ブリュレの方を向いて言った。

「でも、恋の病ってやつにかかっちゃった!」



オチダサすぎワロタ

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