あなた、おかたいのねぇ

「この中にタイプがいたら教えてね。お母さん、すぐ会う手筈を整えておくから」

遂に、私にも来てしまったんだ。お見合いってやつが。

「どれもイマイチ・・うーん・・・」

私のような小娘とお見合いしてくれるのは有り難い。のだが、いっちゃ悪いが誰もが売れ残りらしかった。
つまり私も売れ残りって訳ね。はいはい。

溜息。最近溜息のつきすぎで幸せが逃げていく。
取り敢えず仮ではあるが、一番年齢が近い真面目そうな男性を選んでおいた。


____ナマエは片想いを長年こじらせている。なぜならその相手が将星クラッカーだからだ。叶うわけない。それでも自分の気持ちに嘘がつけないまま数年。遂に私も売れ残った。

「ナマエ、決まったわ。早速だけど明日だから」
「明日?」

早い。まだ心の準備が。

「くれぐれも失礼のないようにね」
「はい・・・」

有無を言わさぬ母からの視線に縮こまるしかないナマエであった。

***

「こんにちは」
「こんにちは・・・」

母に着せ替え人形にされ、慣れない踵の高いヒールを履かされた。それでも、きれいな服を着せてもらったので、ナマエの気分はまだマシだった。

出てきたのは真面目そうな男性だった。こういう人が二重人格だったりするんだよな~とあらぬ偏見を抱いてしまった。

「さあ、行きましょう」

自然な流れでエスコートされた。案外いい人かも。
と、思ったが。



「・・・・・」
「・・・・・・」

さっきから会話に発展しない。無口な人なのかな・・・?

「・・・あの」

ようやく男性が口を開いた。

「僕には他に好きな人がいるんです!親がむりやり・・。だから、あなたとは・・・」

男性は頭を下げた。こんな展開はドラマで見たことあるぞ。

「いやいや、頭を上げてください!・・実は、私も同じなんです」
「え?」

それから私は好きな人がいるということを話した。

「そうだったんですか・・・」
「はい。でも、到底叶いそうになくて・・・」
「そうなんですよね・・・」

それから意外に片想いトークで盛り上がった。相手がなかなか振り向いてくれない。振り向いてくれたとしても自分じゃ釣り合わない。何もかも自分のケースと同じで、結婚相手としてではなく、恋愛トーク仲間として着実に仲を深めていた頃。


自分の行きつけの店から、紫色の頭が出てくるのが見えた。

「あっ・・・」

間違いない。というか間違いようがない。クラッカーだ。ナマエは咄嗟に顔を伏せた。

「どうかしましたか?」
「いえ・・向こうに知り合いが」

クラッカーの横には、ナマエの知らない女性がいた。二人は楽しそうに笑っている。
嫌だ。見たくなかった。クラッカーが他の人と楽しそうにしているところなんて。

それどころか二人の足音はどんどん近づいて来る。来ないで。
いつも控えめなナマエが今日はお見合いのためにめかしこんでいるので、バレないといいが。


「・・・マー君?」
「・・ローズちゃん?」

いや誰よ。隣の男性を見ると、悲しげにクラッカーの隣の女性を見つめていた。マー君て呼ばれてんだ・・・。

「その子、マー君の・・・彼女ちゃんなの?」
「いや、そういうわけでは・・・」

私が否定しようとするも、クラッカーはどこか怒った顔でこちらを見ている。マー君に嫉妬しているのだろうか。

「違う!!!僕が好きなのは・・!!ローズちゃんだ!!!!!」

隣のマー君がいきなり立ち上がって愛の大告白をする。私はびっくりしてただ呆然とするだけだった。

「ローズちゃん・・。僕と!結婚してくださあああぁぁぁい!!!!!!」

すごいよこの人。

「・・・っはい!!!!」

ローズちゃんは目に涙をいっぱい溜めながら嬉しそうにマー君に抱きついた。
周囲から拍手が沸き起こる。二人は抱き合いながらどこかへ去っていった。


私とクラッカーを残して。

周囲からの同情の眼差しが刺さる。なんか、振られたみたいになってる??
その場に居づらくなって、折角おめかししたはいいけど帰ることにした。

「おい」
「え」

クラッカーが腕を掴んでくる。

「・・・さっきの男は」
「お見合い相手」
「見合いだと・・?」

腕を掴む力が強まる。痛いもげる!!

「おれは、許可してねえぞ」
「将星の許可がいるなんて聞いたことない」

聞きたいことなんて山ほどあった。さっきの子とはどういう関係なの。あの子の事が好きだったの。

「・・・クラッカーも、お見合い?」
「ちげえよ。あいつはただの客人だ」

へえ。と、相変わらず無表情を貫く私にクラッカーはちょっと怯む。

「・・・おい、ナマエ」
「何」
「一度しか言わねえからな」

ぐっと、クラッカーとの距離が詰められる。



「好きだナマエ。おれと、付き合え」

クラッカーの一世一代の告白らしかった。彼の拳は固く握られている。

「っ返事は」
「・・・・・遅い!!!!」
「なっ・・・!」

ナマエは好き、と言う前にクラッカーに抱きついて唇に唇を重ねた。
驚くクラッカーだったが、キスが終わるとまた嬉しそうに、今度はクラッカーから心のこもった口づけを貰った。

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