またしても失敗(まだ若いカタクリさん)
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「また、見えなかった?」
そう言って妻は故郷の茶葉で入れられた紅茶を一口含んだ。
「あァ。・・・お前、本当に能力者じゃないんだろうな・・」
「違うわよ」
社の中。メリエンダではなくただのお茶の時間。妻と二人きり、リラックス出来る空間にも関わらずまたしても失敗だ。
見聞色を使う時は常に冷静でいなければならない。今は別に焦っているわけでもない。
ならばどうして妻の未来だけが見えないのだろうか。
「思ったんだけど・・」
そう言ってナマエはカップをテーブルに置いた。行動もいちいち優雅だ。
「私の前では冷静でいられない、とか?」
「そんなはずは・・」
ない、まで言おうとして言えなかった。ナマエがカタクリの左胸に手を当てたからだ。こんな未来、予測できなかった。
「でも、鼓動速くない?」
「うるせぇ・・」
確かに、ナマエの言うとおりかもしれなかった。今だって顔に熱が集まって来ているのが分かる。
照れ隠しに紅茶を一気に流し込んだ。
カタクリは彼女の未来を見ることにに集中しようと目を閉じる。それでもやはり未来は見えなかった。
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数カ月後。仕事が立て込んであまり彼女との時間を確保出来なかったが、カタクリはなんとかナマエの一秒先の未来くらいまでなら見れるようになった。
「お前はこう言う。・・・"実家に帰らせて下さい"、と・・・・・。」
確かに。彼女に寂しい思いをさせていたかもしれないが、こっちだって同じ気持ちなのだ。胸が炙られるような焦燥感を感じた。
「正解よ。まあ嘘だけど」
カタクリは安堵のため息をついたが手には焦りのあまり汗がグッショリだ。
「ほらほら、冷静になって」
「テメエ・・わざとか。もう嘘でもそんな事言うんじゃねェ」
「ふふ、ごめんね」
そういえば、彼女はいつも飲んでいた紅茶を最近は飲まなくなった。あんなに美味しそうに飲んでいたのに、今ではカタクリのカップさえ見ようとしない。
「じゃあ、次に私が言おうとしてる事当ててみて」
「・・お前はこう言う。"お腹にあなたとの子が"・・!」
言い終わる前にカタクリは驚愕で目を見開いた。
「これは、嘘じゃないから。仕事が忙しくてなかなか言えなかったけど」
ナマエがニコニコ笑う。カタクリの手をお腹へと誘導した。
「せ・・性別は」
「まだ分かんない。けど、カタクリが欲しがってた女の子な気がするの。」
もし、子供が産まれたら。ナマエに似た可愛い娘がいい。カタクリは常々そう言っていた。
「あとね、まだ軽い症状なんだけどね。紅茶の匂いが嫌いになっちゃって」
「ああ、すまねぇ」
カタクリは急いで自分のカップに入っていた紅茶を全部のんだ。さっきから紅茶の方を見向きもしなかったのはそのせいか。
改めて、ナマエの腹部を見つめた。今はまだ妊娠しているとわからない見た目ではあるが、だんだんと大きくなっていくのだろう。
「さ、カタクリにも言えたことだし。ママに報告しなきゃね」
「待て、立つな。動くな。子供に何かあったらどうする」
「え」
カタクリはナマエの体を慎重に抱き上げた。そのまま報告に行くつもりらしい。
「ちょっと。適度な運動も必要だよ」
「お前は危なっかしいんだ」
そういうところが可愛い、とは言えずに、カタクリはナマエの体を抱いたまま早速子供の名前を考えていたのだった。
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