「お疲れ様でしたー!!!」
長かったバイトも終わり。営業スマイルのし過ぎで顔の皺が増えそうだ。
「あっ、ナマエちゃん!今日もこれ持っていきな!」
店長が私を呼び止める。店長が差し出したのは店で余ったドーナツだった。
「わーいありがとうございまーす!」
これを帰り道で食べるのが私のブーム。太るしニキビできるしいいことはないけど。
「今日中に食べてね。お疲れ様」
「お疲れ様でした!」
くー!!店長が優しすぎる。
_______
店の裏口から出ていざ帰ろうとすると、見覚えのある巨人と目があった。ドキッとした。もしかしてもしかしたら、私を待っててくれたのか?
これも私のブーム。ありもしない妄想を楽しむこと。
私はそのままそそくさと立ち去ろうとする。
「おい、無視すんな」
「げ、なんでここに」
あーもう馬鹿。私の馬鹿。なんでこんなことしか言えないのかな。
そう言うと、見覚えのある巨人__カタクリは眉間の皺を更に深くした。
「別に何でもねェ」
「じゃあなんなの・・。!分かった、これでしょ?」
ナマエはドーナツの入った箱を掲げてみせた。
「昔からドーナツ大好きだったもんね」
そう。私とプリンは幼馴染。だから私とカタクリも幼馴染。
カタクリは怖いと思われがちだけど、本当はドーナツが大好きな可愛い甘党だ。いつもの無表情だが目が輝いているのが分かる。
「ちょっと流石に私もダイエットしなきゃだから少しあげ・・」
カタクリは私が言い終わる前にぱっと私から箱を取り上げた。
「ちょっ!全部とは言ってないよ!」
するとカタクリは箱から一個取り出して、マスクも取らずに私が瞬きする間に食べてしまった。
いつも思うが、何でそんなに早く食べれるの。
「ダイエットなんだろ?」
「でもでも、、お願い、そのモチモチのポン・デ・〇ング一粒だけでも・・!!」
そう懇願すると、カタクリはほんとに一粒だけくれた。
「あーん」
「・・・・しねェよ」
やっぱり?
「あっ、”あーん”照れる系?ごめんごめん彼女でもないのに。確かに私も彼氏の前でしかしたこと・・ふぐっ!?」
ヤケクソで言ったら、指ごとむりやり押し込まれた。カタクリの顔が般若だ。
「ななな何するの!」
「うるせェ黙って食え馬鹿女」
「お前が黙れ!!」
カタクリがどう思ってるのかはさっぱり分からないけど、こういう会話、私は楽しかった。みんなが知らないようなカタクリの一面を知っているのは家族以外で私だけだという優越感にも浸った。でもこんなのがずっと続くとは思ってない。カタクリに彼女ができるまでという期限付きの関係だけど、”仲の良い”幼馴染でいたい。
ヴェールをどうぞ
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