When the morning dew is dry

「寒い寒い寒い!!」

今日のストッキングは、調子に乗って20デニール。おまけに断線した。あまりにも冷たくて、涙が出そうである。

「ただいまー!!」
「おかえり」

出迎えてくれたのはおばあちゃん。両親は長期の海外出張で殆ど家にいない。この家には、私と祖父母の三人で暮らしている。

「晩飯まだか?ばあさん」
「まだですよ」
「今日は一段と冷えるからなあ。温かいのがいいなあ」

今日は大寒気が日本列島を襲う。どこの家もストーブをたいている。
だがうちにはストーブなんてものはなく、あるのは電気ごたつのみ。元々武士だった先祖から代々受け継がれてきたこの日本家屋は、火気厳禁なのだ。

「あー!こたつこたつ」

この家は寒すぎる。主に隙間風。しかも、廊下は外にある。トイレに行くときが地獄だ。
誕生日プレゼントに貰った、ナマエ専用のこたつ。No こたつ no life。
目の前には大きな鏡。これは、うちの蔵に入っていたという。丁度鏡も欲しかったから壁にかけている。

「・・・ん?」

気のせいかな。その鏡に私ではない誰かが写ったのは。
そんな考えが頭をよぎるが、こたつの心地良さに誘われ、すぐさま眠りについてしまうナマエであった。

***

ブリュレのミロワールドでメリエンダを終え、自宅に帰る鏡を探していたカタクリだったが、それが見当たらない。自分サイズの大きな鏡があったところには、見たこともない別の鏡が鎮座していた。

誰かが自宅の鏡を変えたのか。不快に感じてチッと短く舌打ちする。だが自分が入れる大きさの鏡はこれしかない。取り敢えずミロワールドから出よう、とその鏡に足を踏み入れた瞬間、眩しすぎる光がカタクリを包み込む。

「な・・!」

見聞色を発動する暇もなく、ただ得体のしれない光に吸い込まれてしまうカタクリだった。


「・・・・」

目が覚めるとそこは、見覚えがない場所。しかも、明らかに万国ではない。喋るホーミーズたちはいないし、お菓子で出来た家具もない。見たところ、ワノ国風の建物だ。
そして気付いた。カタクリの背が縮んでいることに。おおよそ3m程低くなっている。

それから、目の前で寝ている少女の存在にも気付いた。彼女は謎の箱のようなものに入ってすやすやと眠りこけている。

「・・・おい」

声をかけてみるも返事がないので、仕方無くカタクリはその少女に歩み寄った。

「起きろ」
「んー・・ご飯?」

ナマエは起き上がってカタクリの存在を確認したが、また寝た。夢かと思うじゃないか、自分の部屋に知らない人がいたら。

「寝るな」
「んー・・?」

揺すぶられ、半ばむりやり起こされたナマエは寝ぼけ目を擦る。再度確認したが、なんか知らない人がいる。大事だから二度言うが、知らない人がいる。

「は?」

え?は?誰?ただでさえ寝起きのナマエの頭は最早ショート寸前だ。

「ナマエー、晩飯出来たぞー」

と、そこにおじいちゃんが襖を開けた。

「あっ・・・」



「ふっ、不審者じゃあああ!!」
「おじいちゃん落ち着いて!!!」

大きな声を出されては困るので、カタクリは餅で老人の口を塞いだ。

「ふむぅ!!」
「ちょっと!!老人に餅は駄目!」

ようやく口の餅を剥がされ、息をつくおじいちゃん。だがその目は恐怖ではなく驚きに満ちていた。

「そ、それは・・悪魔の実の能力!?」
「知っているのか?」
「おじいちゃん?とうとうボケたの?」

おじいちゃんは平静を保とうとするも、ゼイゼイ苦しそうだ。餅が詰まったのだろうか。

「あんたも・・その鏡からこの世界に連れてこられたのか?」
「あァ、そうだ。何か知っているのか」
「ああ・・。わしも随分と昔にその鏡からこの世界に連れてこられた」

え?おじいちゃん異世界人?しかもどうやらこの大きい人と同じ世界の出身らしい。

「わしはかつて海賊だった。ある日商船を沈めて奪い取ったお宝の中にその鏡があって、わしは吸い込まれ、この世界に来た」

海賊?おじいちゃん、めっちゃ悪いことしてんじゃん!!

「そうか、おれも海賊だ。シャーロット・カタクリだ」
「しゃしゃシャーロット!?じゃああのビッグマムの・・」
「息子だ」

おじいちゃんは重心を失ったかの如く、よろよろと腰をついた。その世界ではなんかすごい人らしい。私は会話についていけない。

「とりあえず・・・、丁度鍋ができたから一緒にどうじゃ?」
「悪いがおれはもう済ませている」

え、私はどうしたらいいのさ。先にご飯食べに行ってもいい?

「そうかい・・。ところでこれからどうするんじゃ?」
「なんとか帰る方法を見つける」
「・・・残念じゃが、帰れる方法は無い。わしも随分と探したが、未だに帰ることは出来ない」

大きな人__カタクリが眉間に深い皺を寄せる。

「でももう後悔はない。ここで家族を得て、それなりに第二の人生を楽しめておる。アンタもこの世界で生きていく、という選択をしたほうがいいかもしれん。アンタも、心が決まるまでここにいたらいい。今は冬じゃ、凍え死にしてしまう」

そういえば小さい頃にも同じような人がいた。ある日当然のように家にいて、そこで仲良くなった。今では彼女はひとり立ちして年賀状のやり取りだけが続いている。まさかその人も異世界から来たというのか。そしておじいちゃんは異世界人を養いすぎじゃないか。

「すまないな・・、では少しここで世話になる」

まじか。

***

カタクリは初めてこたつに入って感動しているようだった。向こうには無いらしい。

「これを見ても怖くないのか」
「全然。もう何が起こっても不思議じゃないので」
「そうか・・」

これから一緒に暮らすにあたって、口を見せてもらうことになった。本人は大分気にしているようだが、ナマエは特に何も思わなかった。

今日の鍋は寄せ鍋。我が家の鍋には必ずお餅が入っている。そこでカタクリさんが手からモチを出した。

「これで食費が浮くわね・・!!」
「おばあちゃん、毎日お餅はキツイよ」

カタクリさんは無口な人だったが、少しずつ、向こうの世界の事を話してくれた。それがとても面白くて、私はいつもカタクリさんと話していた。


そしたら、時間の問題だった。私がカタクリさんに惹かれちゃうのは。



今日は、学校の友達に手作りのお菓子をあげるためにカタクリさんの手を借りている。というのは建前で、本音は見た目とは裏腹にドーナツが大好きなカタクリさんのために作ってあげたいというものだ。

「今どきのドーナツにはね、アイシングクッキーも乗っかっているんですよ・・!」
「なんだと・・?」

これには驚いたようだった。ドーナツとクッキー、クッキーとドーナツ・・、ひたすら最高のドーナツを追い求める彼は思案顔で腕を組んでいる。


いざ、作ろう!となっても序盤からつまずくナマエだったが、カタクリが上手くサポートをする。

「カタクリさんてやっぱり何でもできるんですね・・(スパダリ・・・!!)」
「料理は餅とドーナツだけだ。おい手が止まってる」
「はい」

スパダリじゃなくてスパルタだった。


なんとかドーナツ作りも佳境を迎え、最後に揚げることになった。

「油の温度が重要だ」
「はい」

ドーナツを投入すると、油が跳ねてナマエの手に当たった。

「熱っ!」
「おい!」

カタクリはナマエの手を掴みすぐに水道水で冷やした。後ろから抱きしめられているような格好になってナマエは顔を赤くする。

「全く・・、気を付けろ」
「スイマセン・・」

どうせ、世話の焼ける妹みたいにしか思っていないんだろうな、私のこと。
うっすらと悲しいのがやり切れなかった。



仕上げにアイシングチューブで可愛くする。ハート模様を一生懸命書いた。これはさり気なくカタクリさんに渡したい。

「わ、ちょっと!」

カタクリさんがハートの書かれたドーナツを味見と称して食べた。自分から渡したかったのに。

「まあまあの出来だな」
「そうですか?ならカタクリさんのおかげですね」

ナマエが微笑むのを見て、カタクリも同時に目を細める。
その目色は妹などではなく、愛しいひとに向けるそれだということに我が孫はまだ気付かない。


「若いのう」
「ええ。まるで昔の私達のようだわ」

ナマエの祖父母は、離れたところで二人の様子を伺っていた。
ナマエの祖母もまた、ナマエくらいの頃に鏡から出てきた祖父と出会った。そこから恋に落ち、家庭を持ったのだ。

「ちょっとカタクリさん味見しすぎ!!ハートのドーナツ無くなるんだけど!」
「いいだろう、これくらい」
「これじゃあ男子にあげる分なくなっちゃうって!」
「あ?」

男子、という単語を聞くとカタクリは途端にハートのドーナツを全て食い尽くした。

「ああ・・・足りなくなっちゃった」
「うまし!」



祖父母は笑いながら、滴るような慈愛のこもった目で終始二人を見守り続けていた。


いかがだったでしょうか。リクエスト内容は、「祖父母と一緒に暮らしている(両親は、単身赴任)→カタクリ行倒れ→助ける→カタクリ別世界で混乱→爺ちゃんカタクリの世界の人(説明する)→少しずつヒロインと距離が縮まる(ヒロインは、自分なんか相手されないよねと思っている。カタクリは、女として見てる)→祖父母昔の自分達を見てる見たいで、応援する」とのことでした。デティールまで書いてくださって、書くのが大分楽でした!

最後に、リクエストありがとうございました!今後もよろしくお願いします。


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