いばらの埋葬
7
「きゃあああああ!!」
「な…何だこれは!?」
「バラバラの死体!?」
皆ガタガタと震える。その中でも夏葵ははじめと行動を共にしてきたので、死体には慣れた反応である。
「う…うっそ…!!これ…す、皇さん!?」
禅田が口走る。
その言葉に、皆ギクリとする。
「花開いた薔薇と2つの蕾…」
不意に、月詠ジゼルは黒薔薇を手に取り、詩をよむ。
「え?」
「花言葉は、永遠の秘密…」
「永遠の、秘密!?」
「もう1つありますよ」
高遠も黒薔薇を手に取り、立ち上がる。
「黒い薔薇の花言葉は、死ぬまで憎む。そして…」
「復讐の亡霊…」
知っていたので、思わず夏葵は声に出してしまう。
「博学ですね」
高遠にニコッとされる。
「あー…TVでやってたから」
取り敢えず笑みを返しておく。
開いた花と2つの蕾がついた薔薇の花言葉は"永遠の秘密"。さらに黒い薔薇の花言葉は"死ぬまで憎む"。そして…復讐の亡霊…
これはある人に教わったことだ。
それよりも、禅田さんが言ってた皇って…、?
「す…皇だって!?こいつ…まさかあの時の!?」
小金井がガクガクと震えている。
「ほう…」
どうやら知り合いの様だ。
「この人とお知り合いですか?小金井さん」
「ひいっ!」
高遠が男の頭が載ったクロッシュを小金井に近づける。
「なっ、何するんだ!そんな男知らん!!」
「おやおや…小金井さん以外にもこの人を御存知の方がいらっしゃいますよね?もしよく思い出せないようでしたら…どうぞお近くで確かめられてはいかがでしょう?」
高遠が男の頭を皆に近づける。
人の頭は数kgの重さがあると言うが、高遠はそれを片手で軽々と持っている。何者だ。
「やめてっ!!その人は皇翔、皇生花のチェーンの社長で…私の知り合いだった人よ!」
禅田みるくが男の死体から顔を背けながら言った。
「なるほど、大手チェーンの社長さんでしたか」
皇生花って…聞いたことあるな…。後で調べてみよう。
「ところで、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、この黒い薔薇は染められた生花です。しかも被害者の首には防腐処理…エンバーミングが施されている。この処理に使われている薬品は、プリザーブドフラワーと同じもののようですね」
「プリザーブドフラワー!?」
「まさか…!!」
皆の視線がプリザーブドフラワーアーティストである冬野に集まった。
「プリザーブドフラワーは特殊な薬品を使うわ、専門的な知識を持っている人が使用しないと危険よ」
「そ…そうよ!人間をプリザーブド出来る様な薬品や道具を持っているのはプリザーブドフラワーアーティストの冬野さんしかいないわ!」
「そ、そんな事で私を犯人って決め付けるのはやめてよ!!馬鹿げてるわ!!」
冬野は必死で弁明する。
「プリザーブドフラワーの作り方なんてネットで調べりゃいくらでも出て来るし、必要な薬品のメチルアルコールやエタノールなんて誰だって手に入れられるわよ!」
「例えば生物教師の白樹さんだって、実験用品として手に入れられるだろうし」
「…!」
「バイオテクノロジーの会社やってる祭沢さんだって手に入れられるでしょ!?」
「なっ…!!うちはそんな事のために薬品を使ったりしない!!」
「…それに、織物師の禅田さん、染物に薬品を使うあなたもこれぐらい手に入れられるわよね?」
「何よ…!」
「そもそも皇さんと親しかったあなたの方が動機はいっぱいあるんじゃない?」
「なっ…何ですって!?」
空気がピリピリしてきた…一触即発だ。
そう言えば、秋間(夏葵の後輩)は?
少し辺りを見渡すと、なんと壁の隅で顔面蒼白で倒れていた。
秋間は血が苦手である。死体はショックが大き過ぎたか。
その倒れているざまがあまりにも面白いので、写真を撮っておいた。
「…あの…プリザーブドフラワーなら俺も作りますよ?」
「「え?」」
沈黙を破ったのは写真家佐久羅京。
「いや…実は写真だけじゃ物足りない時にたまに…」
「意外〜あの佐久羅さんって人も作るんだ」
美雪が言った。
「それより皆さん、肝心な事を忘れてますよね?」
「肝心な事って何よ?」
「この無残なディナーを誰が準備したかって事ですよ」
「あっ」
「も…毛利さん!!」
「えっ」
「犯人は給仕をしたあんたか!?」
今度は毛利さんに視線が集まる。
「私は犯人ではありませんよ、佐久羅様。私が用意したのは本当にただのローストチキンで…食事は主の言いつけ通り一階のキッチンで出来合いの料理を温めて皿に載せました。その後皿をダムウェイターにセットして扉を閉め、ボタンを押し、すぐそこにある螺旋階段を降りてきて、地下に到着した料理を皆様にお出ししただけなんです。」
「でもその時俺らは全員席についてたんだ、毛利さん以外に誰が食事と死体をすり替えられるんだよ!?」
「そ…それは…」