零に纏わるタブー
6
「わぁー本当に十字架の形なんだ」
館の見取り図を眺める。
「御案内致します」
毛利さんが先にゆく。
「後で夏葵さんの部屋にお邪魔してもいいですか?」
「…ダメ」
高遠がちょっと不貞腐れる。夏葵は男の子の不貞腐れた顔が好きなのでちょっと萌えた。
はっきり言って高遠は恋愛対象外ではない。
犯罪者に囲まれて育った夏葵は高遠を犯罪者といえども一般人だと思っている。
こんなイケメンに言い寄られて、嬉しくないわけがない。もう少し仲良くなりたいが、夏葵の低レベルな恋愛脳では仲良くなる方法はとても思いつかなかった。
毛利さんが各部屋の鍵を渡す。
途中でみんなと別れ、端の方の部屋に向かう。
「急でしたので掃除も行き届いておりませんがお許しください」
「いえいえ、それにしても薔薇で統一されたインテリアで凄くお洒落な部屋ですね」
そう。壁もベッドも薔薇だらけ。十字架窓の向こう側に薔薇があるのが見えた。
「ありがとうございます。では間もなく夕食ですので」
パタンとドアが閉められた。
「………」
夏葵は何も言わずベッドに寝転がる。
ほんのり薔薇の匂いが香るのは、そばにあるキャンドルからだった。
ダメだ…寝ちゃうよ…
このお布団気持ちー。
「夏葵ちゃーん?」
ウトウトしている間に、美雪が呼びに来る。
「一緒に地下のダイニングに行こ!」
「うん…」
危なかった。夏葵は一度寝たらなかなか起きないタイプだ。
「美雪の部屋もこんな感じだった?」
「そうそう、とってもお洒落な部屋だったよ」
そこに金田一と四十住も合流する。
「そう言えば部屋に風呂あったっけ?」
「地下に大きなお風呂が2つあるらしいっすよ」
「ふーん」
4人は迷宮の様な館を歩きながら、ダイニングへ向かった。
***
「おおー!すげぇー!!」
「オックスフォードの食堂みたいだね」
オックスフォード大学はハリー・〇ッターの撮影で使われた有名大学である。
「地下には他にワインセラーがございまして、主から、そこにあるワインは好きに飲んでいいと言われております」
やった!夏葵は心の中でガッツポーズをとる。
お酒は大好きだ。(未成年)
「さっきセラーを覗かせてもらったけど、なかなかいいワインがありましたよ!」
「それはいいですね。夏葵さんも御一緒に飲みませんか?」
いつの間にか夏葵の横にいた高遠が言う。
「うーん、良いですよ」
ワインの誘惑には勝てず、やむなく高遠とワインを飲むことになった。
「出来立てではございませんが、十分に温めてまいりました。ローストチキンでございます。」
毛利さんがダムウェイターからそれを運ぶ。
「ひゃあー!でけーな!」
「でも、温めたにしてはお皿が冷たいね…」
夏葵はそんな気がした。
「ま!そんなこといいじゃんか夏葵。とりあえず、いただきまー…」
「あっ!駄目ですお客様!」
「え…」
「まず十字架の形をした館そのものに祈りを捧げて頂き、その後、一斉にクロッシュを開けるようにときつく言われておりまして」
「ちぇーっ!めんどくせ…」
毛利さんが聖書をパラパラとめくる。
「えー、それでは…旧約聖書伝道の書第8章より、……罪人で百度悪をなしても長生きするものがいるけれども…」
神をかしこみ、み前に恐れを抱く者には幸福があることを…
夏葵は頭の中でその続きを思い出した。
『私は知っている』
「悪人には幸福がない。また、その命は影のようであって、長くは続かない…」
それは、彼は神の前に恐れを抱かないからである…
「……」
「な…何この祈りの文句…」
「やな感じだな」
「ほんと…」
月読ジゼルが口を開く。
「それにここに添えてある花、黒薔薇なんて不吉…」
「それでは皆様、クロッシュをお取りください」
「……ったく、何考えてやがんだ、ローゼンクロイツって奴ぁ…」
はじめはそう言いながらも、待ってましたというように誰よりも早くクロッシュを開ける。
パカ…
「うわあああ!!!」
「きゃああ!」
「うっ!」
「な…何だこれは…!」
皿の上に料理の様に並べられていたのは、バラバラに刻まれた無残な男の死体だった。死体には何らかの処理が施されているようで、それぞれが切りたてのように瑞々しく、顔は今にも目を開きそうだった…。