一つの憎悪と四つの執着
5
薔薇十字館に集まった人は皆、お互いに顔見知りの様だが、何故か知らん顔をして沈黙している。
その沈黙を破ったのは、社長祭沢。
「ところで…毛利さん、肝心の薔薇十字館の主はどうして顔を出さないんだ?」
「そうよ。祭沢さんの言う通り、招いたホストが出てこないなんてどういう事?」
禅田もそれに続く。
「いえ…それは…」
「"ローゼンクロイツ"」
突然の高遠の言葉に一同がギクリとする。
どうやらローゼンクロイツに心当たりがあるようだ。
「そう名乗るこの館の主人から、ある日招待状が届いたので私はここに来ましたが…その人物と私に面識は全くありません。私だけでない…ここに居る誰もが"ローゼンクロイツ"という人物を知らず、この人里離れた館にわざわざやって来たのではないですか?」
「なっ、何が言いたいんだあんた!?」
「私も貴方達と同類という事ですよ。私も見えざる薔薇の棘を恐れているものの1人です」
その通り。夏葵もまた、後輩の命を助けるためわざわざここへ来た。
ローゼンクロイツは一体何がしたいのか。
「ははは、何ワケ分かんない事を言ってるんですか、俺は薔薇専門カメラマンの第1人者として…」
「薔薇ばっか撮ってて儲かるの?」
禅田が横から口を挟む。
「あ?そーゆー禅田さんの着物こそ値ばかり張って全く売れてないって話じゃない」
「何ですってえぇぇ!?」
凄い剣幕だ。
「まーまー、これから少なくとも3日間はこのド田舎で一緒なんだから、揉め事は辞めましょーよ」
金田一が止めに入る。ナイスだ。
「ところで君達はどうしてここに来たの?高校生が薔薇なんて興味あるワケ?」
冬野が聞く。夏葵は何とか言い訳を考える。
「え…と」
「ご紹介しますよ」
高遠が助け舟を出してくれた。
「彼は金田一一君。かの名探偵、金田一耕助のお孫さんです。そして隣のお嬢さん方は金田一君の助手的な存在七瀬美雪さんと平川夏葵さん」
「金田一耕助の孫だって!?」
「き…金田一君が…?」
一同唖然とするなか、夏葵ははじめの助手と言われた事が嫌だった。
どうせなら私が名探偵と呼ばれたかった。
「私も何者か分からない人物からの招待に一人でやって来るのは少々不安でしてね、警察官顔負けの活躍をしている高校生探偵トリオに一緒に来てもらったという訳です」
「(だ、誰が高校生探偵トリオだよ!)」
「(勝手に助手にされちゃってる〜)」
はじめも美雪も戸惑っていた。
「ええっ!?夏葵さん、探偵だったんですかー!?まあ、そのBrainなら確かに…」
「うるさい、余計な事言うな。あと英語やめろ」
「………」
…私達のことを知って急に静まり返った…?以前に何かあったのかもしれない…