いばらの棘が紅いわけ

9



皆は外へ出る。
暗いので、懐中電灯で辺りを照らす。

「な…何だこれは!?薔薇がアーチを埋め尽くしてる!これじゃ通れないぞ!」
「誰かが隙を見て隠してあった薔薇の蔓をアーチの中に引き入れたようですね」
「うわ…これは無理矢理通るなら棘で血塗れのになるのを覚悟した方がいいみたい」

「道具は?ハサミや包丁くらいあるだろ!」

「それが私も食事の御用意の際包丁を探したんですが、全く見つからなくて…」

「くそっ!こうなったら…!」

「あ!小金井様!!」

小金井は椅子を1脚持ってきた。

「こいつで薔薇の壁を突き崩して脱出する!」
「小金井さん!そんなんじゃこのアーチの薔薇の棘は防ぎ切れないって!」

見兼ねたはじめが止めにかかる。

「うるさい!こんな殺人鬼がいる館より、薔薇の棘で怪我する方がマシだ!!」

はじめたちの忠告を無視し、小金井は薔薇を突き崩そうとする。

「くっ!いてっ!!くそっ!!こんな薔薇の棘くらい…!!」

段々哀れに思えてくる。

「…」
不意に、小金井が動かなくなる。

「!?小金井さん…!?」
「ぐっ…ぐほっ…!」
「きゃああ!!な…何!?」

「小金井さん!」

はじめが駆け寄ろうとする。

「やめた方がいい金田一」

夏葵が牽制する。

「毒だよ」
「このアーチを埋め尽くす薔薇の棘には、恐らく引っ掻いただけで死に至る猛毒が塗られています」

高遠が補足説明。

「う…うそ…じゃあ小金井さん死んだの…!?」

動揺が広がる。

「ま、待ってくれ、このアーチじゃなくても周りの薔薇の垣根をどこでも突破すれば…」
「試してみますか?祭沢さん」

祭沢がハッとする。

「…お気づきになられたようですね…。この館を囲む全ての薔薇の棘に同じ猛毒が仕込まれているとしたら、無理に通ろうとすれば小金井さんと同じようになるでしょう…。我々はローゼンクロイツ氏の作り上げたこの薔薇の檻に、閉じ込められてしまったという事ですね」

「はじめちゃん…」
「…」

夏葵は帰りたくなった。後輩の命が危ないと聞き来たが、やはり何かの罠だったのか。

それとも…

「じょ…冗談じゃない!!」

祭沢の声が夏葵の思考を一時停止させた。

「何か逃げる方法はないの!?」
「ちょっと毛利さん!どうにかしてよ!!」

「そう言われましても」

人々はパニック状態になる。

「仕方ありませんよ、落ち着いて考えましょう」

夏葵がひとまず皆を落ち着かせる。

「夏葵さんの仰る通りですよ。ここには食料もあるようですしのんびりいきましょう。それに肝心の青薔薇のお披露目もまだですからね。」

高遠は部屋に戻ろうとする。

「と…遠山さん!あなたは…」

突如白樹先生が高遠に声を掛けた。

「…私が?」
「い、いえごめんなさい…何でもありません!」
「…」

(白樹先生…?)

夏葵は何だかよく分からない気持ちになった。
何で高遠さんに…?

どこか思い詰めた表情の白樹先生の目線は、先生の掌へと向いていた。

「…ッ!」

見てしまった。

いつもは実験用手袋で隠されていた先生の掌には、青い十字架が刻まれていた…。

いや、刻まれていたというよりかは焼き付いていた。

先生がいつも手袋をしていたのは、あの十字架を隠す為だったのか…。


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