酸素に憎まれたあなた

8



「ローゼンクロイツさ」

はじめが言った。

「これは俺達をこの薔薇十字館に招いたローゼンクロイツが仕組んだ、簡単なすり替えマジックだよ」

マジシャン・高遠もフッと笑う。

「これがそのダムウェイターですよね毛利さん」
「は…はいそうです」
「…この中に薔薇をそれぞれの段に1輪ずつ置く。皆も確認してくれ」

そう言うとはじめはダムウェイターの扉を閉め、1階へのスイッチを押した。

「これでよし!」

夏葵はいつもの事ながらはじめの推理力に感心する。

「じゃ、私達は階段で1階のキッチンへ行きましょう」

***

1階 キッチンにて

「おー、着いてる着いてる」
「では、中はどうなってるかな…」

夏葵達はダムウェイターを開いた。

「え!?嘘っ!!中に置いたはずの薔薇がクロッシュになってる!!」

夏葵はクロッシュを開ける。

「冷めちゃってるけどこれは本来私達に出されるはずだったローストチキンだよ」
「そ…それです!私が用意した皿は!!」
「こうなった理由はダムウェイターが二重底になってたからなんだ!」

「え…!?」

「二重底って言っても本当に底が二重になってるんじゃない。この場合…」

はじめはダムウェイターの奥の壁を打ち破る。

「あっ!!」

「ダムウェイターの奥に張りぼての壁を作って二重にしてあるのさ!」

なるほど…毛利さんは温めたローストチキンをダムウェイターに入れ、地下へと下ろした。でも地下では反対側が開くため仕切りの奥に置かれていた死体を取り出しちゃったってことか…

「マジックとしては基本中の基本、非常に単純です。しかしこの仕組みに気づかないということは貴方は最近ここで働き始めたようですね。違いますか?」
「え…ええ…実は私も昨夜呼ばれて来たばかりで…」

「やはりそうですか」

「だからダムウェイターの奥行きがどれくらいあるかという事を全く知らなかったんですね」

「それも織込み済みの虚仮威しマジックですよ」
「なんてこった…」

「これで私の疑いは晴れたという訳ですね」
「それは違います」
「え?」

「たった今証明されたのは毛利さんの無実ではなく、このトリックが誰にでも出来たという事実に過ぎません。つまり、ここにいる誰もが容疑者という訳ですよ!」

高遠がそう言い放つ。

小金井がガタガタと震えだした。

「…」

「咲いた薔薇と2つの蕾…。花言葉は"永遠の秘密"、そして黒い薔薇の花言葉は"死ぬまで憎む""復讐の亡霊"…」

月読ジゼルが薔薇を手に立ち上がる。

「私、この黒い薔薇を詠んでみたいと思います。」
「は!?」
「な…何言ってんの月読さん」

構わず月読ジゼルは続ける。

「黒い薔薇よ2つの蕾よ、その饒舌なる沈黙よ、願わくばこの場にて」

ジゼルは薔薇を小金井の顔の前へ。

「……」
「我等の秘めたる罪を明かしたまえ…!」

「やめろー!!」

小金井が叫ぶ。

「俺は帰る!毛利さん、車を出してくれ!」
「し、しかしこの時間にバスはございません!」

「どっか宿のある所まで送ってくれよ!あんた、客の言うことは何でも聞くようにここの主人に言われてるんだろう!?だったら従え!いいな!!」

毛利さん可哀想…こんなヤツ、客として扱わなくていいのにと夏葵は思う。

「私も行くわ!」
「わ…私も!」
「こんな所に長居は無用だ」
「…」

私達はどうすれば…帰ってもいいけどお腹すいたしな…。

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