朝――
日の光りを浴びて淡く光る桜色の小袖に腕を通し、蝶の柄の入った帯を結う。
悪戦苦闘しながらも、どうにか様になった姿に一人満足すると、
意気揚々と自室を後にした――
「おはよう!…おぉっ!今日も艶やかな着物姿じゃのう。桜色が小娘の白い肌に映えて、よう似合っちゅう」
「ありがとうございます…っ」
廊下で出くわした龍馬さんは、朝から眩しい程の笑顔で、私の身なりを誉めてくれる。
嬉しさ半分、照れ臭さ半分
龍馬さんの言葉に、なんとも言えず頬を染めるのがやっとだ。
「小娘がこちらに来た頃に着ちょったせぇらぁ服姿も可愛いらしかったが、どうして。着物姿も可憐じゃ。小娘は何を着てもまっことよう似合っちゅうのう」
「や、やだなぁ、龍馬さん。お世辞ばっかり…誉めてもなにも出てきませんよ」
「なんの、世辞なんかじゃないぜよ!小娘のせぇらぁ服姿は弁財天。着物姿は吉祥天のように美しく神々し…」
「朝から、何を騒いでいるんだ。色呆け野郎」
ゴン!
小気味よい音と一緒に、龍馬さんの頭にげんこつが落とされた。
「痛っ…!何をするがじゃ以蔵!!」
「それはこっちの台詞だ!先生が朝から部屋で書き物をしているというのに、廊下で騒ぎ立てて…!静かにしろ!助平」
以蔵は、朝餉が載った御膳を手に龍馬さんに噛み付く。
朝餉を武市さんの部屋に持っていくとこだったのかな
「なっ!色呆けに助平じゃと!?
当たり前じゃ!こんなに可憐な小娘の前では、男はみんな見とれて呆てしまうがじゃ!」
「だから、それを止めろと言っているんだ!」
…あぁ…毎度のこととは言え、雲行きがおかしくなってきた…
「あ、あの…以蔵、龍馬さんも落ち着いて」
「フンッ。以蔵…おまん、女子には興味はないっちゅうて澄ました顔をしちゅうが…ワシは知っちゅうがじゃぞ」
龍馬さんは不敵に笑う。
「おまん…小娘の着物姿を一等早く見る為に、早朝から用もないのに小娘の部屋の前をウロウロしちょるらしいのう」
「え?」
「なっ…!?…い、言い掛かりはよせっ!!」
「言い掛かりなもんかえ!お女中さんが、しっかり見ちょるんじゃ。おまんも立派な色呆け助平じゃ!のう、小娘」
「あ、あの…っ」
「――…もう勘弁ならん!ツラを貸せっ!!その口縫い付けてやる…っ!」
- 13 -
[*前] | [次#]