一人一題作品 | ナノ
蒼凜高校剣道部ホープの憂鬱(1)





髪を上げて、襟元を正して。

一歩中へ入ればささめく声が私を乱す。

すーっと深呼吸をして、心を落ち着かせて。

閉じていた目を開いて、剣先を前へと構えた。


「始めっ!」


―――・・



「おめでとう!個人でも連覇だよ!すごいなぁ、小娘は!」


試合後、親友のカナは嬉しそうに両手をパチパチさせながら私の元へ駆け寄る。私は防具を外しながらそれに苦笑いを返す。


「カナ。・・ありがと。でも私、そんなにすごくないよ」

「またまた〜謙遜しちゃって!」


謙遜なんかじゃない。


「だって私、道場の跡取りだし。」

「それでもすごいって!」


「はい」、とカナから手渡されたタオルで汗を拭きながら、私は思い返していた。

試合前にいつも、嫌でも耳に入ってくるあのフレーズ。


――「あの子、去年も優勝の――」

――「ああ、道場の子みたいだよ」

――「なんだ、そっか」


確かに私の実家は道場だけど、でも


道場の子、だから?

なんだって、何?


私は何もすごくない。


だから強くなりたくて勉強してる。

人一倍に努力だってしてるつもり。


なのに、――・・一体皆は私の何を知ってるの?



「ごめん」

「え、小娘?!」


立掛けてあった竹刀を手に取って、「蒼凛高校控え室」と書かれた紙が貼られた扉を開ける。


「気晴らしに素振りやってくる」

「ちょっと!もう表彰式始まっちゃうよ?!」

「すぐ戻るから」


呆れ顔のカナに私は笑って、そのまま靴を履いて外へ出た。





青い空を切る剣は、ただ無心の弧を描いた。





―――・・



湧き上がった歓声の中で、また聞こえる。


「道場の跡取り」

「だから――」


いつも私に付き纏うんだ。


やればやるほど強くなって。
強い相手と対峙すればワクワクして。
誰かに認められれば嬉しくて。


大好きだったはずなのにな。


最近、なんの為に剣道をやってるのか、自分でもなんだかよくわからない。


私は一つ大きな溜息を吐いて、一番高い台へと上った。



―――・・






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