「あっ…あれはっ…岡田以蔵だ!」
「くっ…小娘、走れ!!」
以蔵が私の腕を掴み、走り出す。路地から路地へと、ものすごいスピードで。
息が苦しい。掴まれた腕がヒリヒリする。足も今にももつれて転んでしまいそう。
それでも私は、懸命に以蔵の後をついていく。新撰組に見つからないように。大好きな人が、危険な目にあわないように…。
「はぁ、はぁ…」
「…ここまで来れば、大丈夫だろう」
私は息も絶え絶えで、返事も出来ない。以蔵はそんな私を心配して、しばらくその場に留まってくれた。
「ごめん…以蔵、もう、平気」
「ん…帰るか」
そう言って歩き出した以蔵。まだ若干息が整わない私を気遣って、ゆっくり歩いてくれているのがわかる。
でも、以蔵の表情が曇っていたことに、このときの私はまだ気付いていなかった。
数日後。
夕飯の材料を買いに行こうと、私は付き添ってくれる人を探していた。
私としては別に一人でも大丈夫なのだが、「いつ危険なことが起きるとも限らん!」と言う龍馬さんをはじめとして、皆がそれを許さなかったのだ。
廊下を歩いていると、以蔵を発見した。これで以蔵と一緒に出かけられる、と胸が躍る。
「以蔵、夕飯の買い物なんだけど…」
「…小娘、お前はしばらく外に出るな」
「…え?」
「…前回の一件で、お前も新撰組に顔を覚えられた可能性がある。まして、俺と2人でいたら、より危険だ。買い物は、俺が行って来てやる」
「…そしたら、以蔵が危ないじゃない!」
「俺は、そんなのは慣れている」
だからって…!
私は猛然と抗議しようとしたが…
「お前を危険な目にあわせたくないんだ。わかってくれ」
以蔵の困ったような顔に、私はしぶしぶ頷くしかなかった。
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