朝起きると、いつもはトバリデパートが見える窓が真っ白に曇っていた。


 「(寒い……)」


 この間マーズと買いに行ったお揃いのフリースを羽織って、そっと窓辺に歩み寄る。
 鉄製の鍵を捻ると、きゅっという音がして何だか嗚呼、寒いんだな。と実感した。





 「…きれい!」

 窓を開けると地面、建物、木、トバリシティの全てが雪に覆われていた。



 「ねぇ!サターン、雪が積もってるよ!」

 朝早くからなまえが部屋のドアを思いっ切り蹴飛ばしたものだから何事かと思った。



 「そうか。それよりお前はドアをもっと普通に開けられないのか?」

 はぁ、とわざとらしく溜息をついてみせる。








 「雪だよゆき〜!キッサキシティ以来だね〜」

 なまえは全く話を聞かずに私の部屋の窓を全開にして雪を楽しんでいる。



 「おい、人の話を聞け!寒いから窓は開けるな!」

 そう言うとムスッとした顔で後ろを振り向くなまえ。



 「ふん!いいもん。下っ端の子達と遊ぶもん。サターンのもやしっ子!」

 窓もドアも開けっ放しで部屋を出て行くなまえ。雪を含んだ北風がひゅうっと吹き抜けた。






 
 ◇







 「いくぞ!なまえちゃんスペシャル!!」

 ボンボンが付いた可愛らしい手袋で馬鹿でかい雪玉を幾つも作るなまえ。
 それをひょいっと片手で持ち上げて下っ端へ次々と投げる。



 「のわっ、負けませんよっ!」

 負けじとなまえに投げ返す下っ端(男)。
 投げた玉の一つがなまえの頭にヒットし、ニット帽がパサリと落ちる。
 少し遠くへ飛ばされてしまったので取りに行こうとすると、トバリデパートの広告が目に入った。








 「クリスマスセール?」

 「なまえさん!どうかしましたか?」


 何所かを見つめたまま静止しているなまえに下っ端が駆け寄る。


 「ねぇ、今日何日だっけ?」

 「え、と…12月24日です」

 「そっか。もうそんな時期か」



 そして下っ端達の方を向いて『寒いし、もう帰ろっか』と微笑んだ。












 *











 雪で湿った服を着替えて、ベッドにごろんと横になる。
 気付けばもう午後3時。一日とはぼーっとしていると早いものだ。
 部屋の中はとても静かで、ピッピ型のストーブがうぃんうぃんと音をたてている以外は何も聞こえない。




 「(サターンも忘れてるのかな、クリスマス)」




 クリスマスといえば恋人たちがお熱い夜を過ごす時期。
 こんな無機質のアジトにはロマンの一つもないってか。
 別に悲しいことなんかじゃないのも分かってるのに、じわりと涙が出てきた。
 夕ご飯を食べる気も起きなかったので、毛布に包まる。
 特別眠い訳でもなかったが自然と眠りに堕ちていった。







 ―――・・・



 コンコン、と聞こえた気がする。
 ハッと目が覚めた。辺りは真っ暗でカーテン越しに夜灯りが部屋を照らしていた。
 時間は午前0時6分。食事をとっていなかったのでお腹がとても空いていた。



 コンコン



 突然生じたノック音。やはりさっきのは空耳ではなかったんだ。




 「だれ…?」

 かちゃ、と控えめにドアを開けてみるとそこに立っていたのはサターンだった。




 「サターン…!なんで、」

 「ほら、これ」


 手渡された白い箱。少し触れたサターンの手はとても冷たかった。






 「わ、つめたっ」

 「お前が寝ていたんだから仕方ないだろう」


 何回もノックしたらしいが、私は全然気付かなかった。
 電気をつけて、部屋へ招き入れる。




 「開けても、いい?」

 「嗚呼。開けないと駄目かもな、この部屋暑いし」



 カパッと蓋を開けると、中身は可愛いショートケーキだった。



 「かわいい…!」

 「そうか、よかった」





 サターンがふっと笑ったから、つられて笑ってしまった。


 「…忘れてるかと思ってた」

 「忘れる訳ないだろう。お前に散々聞かされていたんだ」



 「ふふ、ありがとう」

 「結局25日になってしまったがな」

 「でもクリスマスは今日だよ?」




 なんだか可笑しくなってくる。アカギさまが居なくなって、皆が沈んでたのが嘘みたいだった。



 「なまえ、」



 
 (軽いリップ音が)(静かな聖夜に響いた)

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