銀杏の樹【楓君・真君子供ヴァージョン】
生来人懐こい真だが、流石に親の都合でつれてこられる親族の家では独りだった。
知らない街で親たちは勝手にくつろぎ遊んでおいでと言い渡されて、小遣いを握らされても、あまりうれしくもない。
地元なら喜んで飛び出してゆき、商店街のおじさんやおばさんたちと話しながら買い食いをして、仲間たちと遊ぶのに。
こんな街には友達もいない。
知らない街を歩いて、駄菓子屋で小さなキットカットやスモモをいくつか買って階段を上り神社に行く。
金の銀杏の葉が、はらはらとまう。
そこに一人の少年がいた。
少年はとてもきれいな横顔でうつむき唇を噛んでいた。
思わず真は話しかけてしまう。
「どないしたん?」
その言葉に少年はホッとしたのか、真をまっすぐに見て耐え切れずきれいな涙をこぼした。
よく見ると、膝にも腕にも泥がつきおまけに血が流れていた。
「ころんだんか?きれいにきずあろうたほうがええやろ。バイキン入ったらたいへんや」
母親によく言われたことを、真はつぶやく。
「だいじょうぶ」
少年は気丈にも言い放ったが、ぐっと拭いてもこぼれ落ちる涙がそれを裏切っていた。
「ええからいこな。名前なんていうん?おれ、真いうんや」
「……かえで」
お互い小さな手をつないで、かるく引くと楓は素直についてきた。
「そか!ええ名前やな」
にぱっと笑い水場までつれてゆき傷を洗ってやる真だが、楓の表情は硬い。
「どしたん?そない、いたいんか?」
水で洗いながら真は問う。
楓は首をふるふると横にふった。
「弟が…言うこときかなくて…」
「ケンカしたんか」
「してない!」
涙に洗われたきれいな大きな瞳でキッと睨みつけられ真は笑った。
きっと楓が泣いたのは怪我のせいじゃないことが読み取れたから。
「そか。でも、弟ひとりにしといたらやったらしんぱいやろ?」
「…だから、さがしにきた」
そして、転んで歩けなくなってしまったのだろう。
少年にはこの街はまだ広すぎる。
「ふぅん。じゃ、弟さがしにいかんと」
真は傷口をきれいに洗い流し、ハンカチを取り出して、くしゃくしゃなのであわててしまって、しゃがみこんでふーふーと傷口を吹いて乾かしてやる。
まだ踏ん切りがつかないのか、涙は引っ込んだが赤い瞳で唇を噛んでいる楓に真はもう一度ポケットを探る。
「これ、やる。弟とはんぶんこして、食べてや」
真は体温でとけかけたキットカットを差し出した。
仲直りのきっかけに、なんてつもりもないが、真が差し出すチョコを楓は受け取る。
弟を見つけてなんていっていいかわからなかったけど、楓はいつもお兄ちゃんだったから、弟の面倒はどんな時でも見なきゃいけない。
たとえケンカをしたあとでも。
「こんど、返す。ぜったい」
楓にも、真の意図は伝わったようで。
真はおおらかに笑う。
「ええよ。気にせんで。はよいき。うちかえったら、おかんにちゃんとてあてしてもらえな」
楓はこくんとうなずき、駆け出す。
真ははらはら舞い散る大きな金色の銀杏の樹を見上げる。
年に何度も来ない街だけれど。
「ここでもなかま、できるんかなぁ」
という真の小さな呟きは、青い空に消えた。
END 2009.11.8
人様のお子様の捏造なので・・・話半分で目を通していただけると嬉しいです。
- 34 -
[*前] | [次#]
ページ: