続き部屋にはご用心 1
その日、禎が忘れ物をしたので草と二人で美術室へと戻ったのがそもそもの間違いだった。
忘れ物なんて明日取りにいけばよかったのだ。
思い出した過去の自分さえ腹立たしい。
禎は原因となったかずを恨めしげに睨み付けた。
放課後、いつものように草と二人で学校を後にした禎は、美術室に忘れ物をしたことを思い出し、仕方なく学校へと取って返した。
だが自分が座っていた席に忘れたモノがなく、準備室へとつながる扉に手をかけたとき――。
「や、……っん」
……聞きなれない色っぽい声が漏れてきたのだ。
「あ、そこ……、気持ちいぃ……」
「っ!あぁっ……」
「そこもっと……、そ、あ……」
やたらめったら艶っぽい声と誰かの声がぼそぼそと聞こえる。
伸ばしかけた手を反射的に引っ込めた。
(なにこれなにこれ!!何が起こってるのぉぉ!!)
禎はわけもわからずパニックに陥っていた。
思わず「オー!ノー!!」だとか「ジーザス!!」とか叫びたい気分だ。
「どうしたんですか?」
「シーー!!」
なかなか準備室へと向かわない禎を不思議に思った草は、いきなり口を塞がれてびっくりした。
どうしたのか、と視線で問いただせば、顔を真っ赤にさせて「とにかく静かにっ!」と人差し指で合図する。
その仕草が妙に子供っぽくて、可愛いなぁと場違いな感想を抱いた。 が、すぐに草も禎が何を言わんとしているかを悟った。
「っん、っん、あ……はぁ……」
艶っぽい声が扉の向こうから漏れてくる。
もう一人、ぼそぼそとした声が聞こえるが、くぐもっていて誰だかわからない。
だが、この艶っぽい声を上げている人物なら、想像がついた。
「……かず先輩?」
「え、かずくんなの?!」
草の独り言に禎がありえないと言いたげに反応する。
だがよくよく聞けば、それは聞きなれた友人の声だと禎にもわかった。
「かずくん、こんなとこでなにしてんのさ!!」
「――放課後ですからね」
幽霊部員が多い美術部へ放課後に誰か来るとは思えない。
よろしくやるにはもってこいの場所ともいえる。
((かずくん(せんぱい)、やるならもっと場所考えようよ(ましょう)))
二人の脳裏にはそんな不埒なことがよぎった。
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