02
「あっ!凛乃介!!」
「あー?」
凛乃介はだるそうに振り向いた。
目を細めて、じーっとこちらを見る。
(そういえば、凛乃介は目が悪かったんだな…)
そう思って、俺から近づいていった。
「何だ、楓か。ってかお前、何持ってんの?」
「あー…これな。母親がココに届けろって。朝からパシリだよ」
そう言って地図を凛乃介に見せる。
地図を見ながら首をかしげていたが、端に書かれた住所を見て、くっくと笑った。
「俺んちじゃん。ここ。」
「は?!」
「だから、この住所俺んち。こっちだ。」
なぜうちの親が凛乃介の家人と知り合いなんだろう?
考えても良く分からないけど。
とりあえず今は凛乃介に従って、歩き始めた。
凛乃介の自宅の前に来て、俺はびっくりした。
昔、母に連れられてこの家を訪ねたことがあった。
小学校に入るよりもずっと小さい頃のことで、記憶が曖昧だったけど、
この門構え。この和風のでかい家だけは記憶に残っていた。
あれ?確かこの家に来た時、やんちゃな子供がいたような気がするけど…。
アレは凛乃介だったのか?!
俺は暫く門の前で立ち止まって記憶をたどっていた。
「楓、んな所で立ち止まってねーで、さっさと来いよ」
数歩前を歩く凛乃介が振り向きながら俺を呼ぶ。
その声に反応して俺は凛乃介の後に続いた。
−ガラガラ
玄関を開くと、凛乃介のおばあさんらしき人がたまたま居て。
凛乃介がなにやら説明をすると、おばあさんは上品そうな笑みを浮かべた。
「あなたが楓君ね?」
「はい」
「あなたのお母さん、昔の教え子よ」
「えっ?!」
何となく、俺の記憶の中のパズルが繋がった気がする。
ぽかんとしている俺の顔をみて、おばあさんはくすっと笑うと、『どうぞ』と家の中へ招いた。
『お邪魔します』と言って、靴を脱ぐと、部屋へ案内された。
部屋までの廊下を歩きながら、昔の自分を思い出す。
「どうぞ」
おばあさんがそう言って、俺を部屋に招き入れる。
おそらくココは応接室。
既に置かれている座布団の上に正座して、おばあさんが正面に座り。
凛乃介は俺の隣にどかっと座った。
「あの、これ。母から届けるように言い付かったものです」
「あら。ありがとう」
優しい微笑を浮かべて、受け取る。
母のアレンジした花を見て、嬉しそうに微笑んで。
「私の好きなお花だわ。本当にありがとう。」
透明のセロファンで包装された花を取り出して、早速床の間に飾る。
シンプルにアレンジされた花が、床の間に置かれることによって、
花の表情が変わったように思えた。
おばあさんが俺達の前に座ろうとしたとき、襖の向こうでお弟子さんらしき人の呼ぶ声が聞こえた。
お稽古の時間らしく、呼びに来たのだ。
おばあさんは残念そうにこちらを見て、
「ゆっくりしていって下さいね。今度はお母様もご一緒にいらして下さいな。」
やっぱり品の良い微笑を浮かべ、部屋を出て行った。
部屋に残された俺と凛乃介。
俺は思わず、ふぅーと盛大な溜息をつき、足を崩して座りなおして。
凛乃介をまじまじ見つめる。
「俺、小さい頃母親に連れられてココに来たことある。」
「マジで?!」
「…お前、やんちゃ坊主だったよな」
凛乃介は、ふいっと横を向いて「うるせぇなっ」と照れくさそうに笑った。
俺の中の凛乃介は、今も昔も【やんちゃ坊主】だ。
ひょんなところで縁ってあるんだな…。俺はそう思った。
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