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玄関を開けると、一番最初に飛び込んでくるもの。
ソレは、消臭効果もあるという胡蝶蘭のシルクフラワー。
その隣に、申し訳なさ気にシルクフラワーのヒマワリで作ったブーケ。
更に、玄関脇の靴箱の上には、アレンジされた花。

胡蝶蘭以外の作品はすべて手作り。

玄関から、居間に向かうと、テーブルの上にはドーム型。
キッチンに移動したら、キッチンテーブルの上には小さめの籠。
和室に行けば、シンプルで和風に製作されたアレンジ。

何処もかしこも必ず作品がおいてある。


母の趣味だ。気分がいいと、花を買ってきてはアレンジをする。
花代だってかかるだろうに…。

『花があると、嬉しい気分になる』からだそうだ。
たまに面倒で、花瓶にそのまま挿すだけの事もあるけど。
鉢植えにも凝っているらしい。庭にはボタン・バラ・チューリップ・水仙・ユリ……。
苗木にまで手を出していて、一番のお気に入りは『詫助』。
季節ごとにいろんな花が咲くわけだ。


最近、知り合いに教えて欲しいと言われ、
週末になると母の知り合いが数人家にやってくる。

なるべく、母の友人が来るときは家にいないようにしている。
母の友人だけあって、かなりのおしゃべり好き。
うっかり出くわして、必ず言われる言葉は…。

『あら、楓君っ!大きくなったわねー。いい男になって…。うちの娘を貰ってくれないかしら?』
『オバサンがもっと若かったら楓君みたいな人をお婿さんにしていたのに』

おばさんパワーは留まることを知らない。
一人が話し出すと、途端に弾丸トークに突入するから疲れてしまう。
更に、付け加えて言われるセリフは。

『彼女、居るの?』

…放っておいてください。
けど、母の手前必至の笑顔を浮かべることしか出来ない。
そして、俺が苦笑いを浮かべたまま、オバサンパワーに押されていると、母が放つ言葉。

『誰か紹介してあげて〜!』

いや、ホントそれだけは勘弁してください。
母よ…。あなたのご友人の娘さんなんて、空恐ろしい。
あなたたちを見ていると、女性は恐ろしくおしゃべりで、集団になると騒がしいとしか思えない。

そんなわけで、今日も母の友人が集まる時間が来る前に
財布と携帯だけ持って、玄関のドアを開けようとした。


『ちょっと楓っ!何処に行くの?!』


母がパタパタと玄関までやってきた。
ふぅ、と小さな溜息をついて。


「ちょっと…。」

『ちょっと?たいした用事じゃないのね?ならコレを届けてくれる?』


シンプルにアレンジされた作品を手渡してくる。
きちんと包装もしてあり、誰へのプレゼントだろうか?
何で俺が?!と少々不服そうに眉を顰めて母を見た。

けど、母はそんな俺にお構いなしの様子で、地図を手渡してくる。
地図の端には電話番号と住所がチマッと書いてあるだけ。

『よろしくねー。』

そう言って、母は部屋へ戻っていった。
俺はしぶしぶ花と地図を持って玄関を開けた。


「…なんだこの地図。なんてアバウトな描き方なんだ…。」

はぁ、と溜息をつくと住所を頼りに歩き始めた。
走ったりすると、アレンジが崩れる。
けど、ソレを同じ体勢で持っているのも結構疲れてくるもので。
仕方なく、いつもよりゆっくりペースで歩いていた。


「番地からするとこの辺なんだけどな…」

うーん、と唸りながら地図と近所の様子を照らし合わせる。
けど、母の地図はやっぱり微妙で。
仕方なく電話を掛けようと、携帯を取り出した瞬間、見覚えのある後姿を見つけた。


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