それを見れば。01



同好会に入ってから、屋外コートでの練習日に屋上を見上げるのが何となく癖になった。


【それを見れば。】


レギュラー組と準レギュラー組が試合形式の練習に入った。
審判やラインズマンから外れたその他の1年組はコート周りに等間隔に立って、声出しとボール拾いをすることになっている。
適当に声を出して、勢いよく飛んでくるボールも取る様で適当に流していた芳紀は、何となく視線を感じて屋上を見上げた。

人影に目を凝らせば、あれはどうやら町蔵の様に見えた。
屋上にいる町蔵も芳紀の気が付いたのか、手をぱたぱたと振ってくれて。
辺りを見渡した芳紀が自分かという素振りを見せたら、町蔵は返事代わりにさっきの倍手を振ってくれた。
嬉しくなった芳紀が手を振れば、町蔵はまた勢いよく振り返してくれたので、自分も負けじと手を思いっきり振ったら、いつから見ていたのか楓に怒られるのだった。


「楓先輩、コンビニ寄ってもいすか?」

部活の帰り道、楓と二人で帰る途中に芳紀はコンビニに立ち寄った。
毎週立ち読みする雑誌の発売日でもなかったけれども、どうしても欲しくなったものがあって。
学校に一番近いこのコンビニは帰り道でよく立ち寄っていた。
一番奥に置いてある冷蔵棚から、先を歩いていた楓は芳紀がいつも飲んでいるスポーツ飲料を手渡そうとしたけれど。
芳紀はその心遣いを申し訳無さそうに断ると、その隣の冷蔵棚の扉を開けた。

「めずらしいな。」
「町蔵先輩を今日屋上で見ちゃったんで、飲みたくなったんすよ。」

奥の方からよく冷えてそうなペプシを手に取ると、二人はレジへと向かいがてらにぶらぶらと店内を歩いていた。
手にしたそれ以外は特に欲しいものが見当たらず、綺麗に陳列されているお菓子を流し見てレジへと向かう芳紀は、ある物を見つけて立ち止まった。

「・・・っ芳紀、お前、急に立ち止まるなよ。」
「あ、すんません。」

口では謝罪を述べつつも、意識はもう目の前のお菓子に集中していて。
何かと思った楓が棚を見やると、芳紀が手を出そうとしている物に思わず噴出してしまった。

「お前、それまだ食うの?」
「もうこれで最後っすよ。ラスワン〜。」

当分見たくねぇと呟きながら、並べられたそのお菓子を手にとってはからころと振って、芳紀は選りすぐったものを一つ取るとレジへと向かった。
店を出て直ぐ、芳紀はパッケージを開け、そして楓の顔を見ながら悪戯に笑うとゆっくりと取り出し口を開けてみた。
通り行く人が二人を不思議そうに見ていたけれど、そんな事はお構い無しに楓と芳紀は大笑いをして。
ひとしきり笑い終えた芳紀は携帯を取り出すと、写メを撮ってメールを送るのだった。


翌朝、朝練を終えた芳紀を珍しく起きていた凛之介が出迎えてくれた。

「昨日の写メ見た?」
「あぁ。つーか、お前あれからまた食ったのかよ。」
「楓先輩にも同じこと言われた。」

暫く食わねぇと呟きながらバックから取り出す芳紀に凛之介は嘘くせぇ鼻で笑って。

「禎にも送ったのかよ。」
「こんな楽しいこと送る訳ないじゃん。今から行こうよ、禎先輩んとこ。」

忙しなく生徒が廊下を行き交うの中、だらだらと2年の教室へと向かう道すがらに。
最後の一枚は当たったのだろうか。
そんな芳紀の呟きに凛之介は教室の時よりも盛大に鼻で笑って。

「昨日あんだけ人に食わせといて当たらなかったんだぜ、ありゃ無理だ。」
「それにしても、あの人本当にコレクターというか。凝り性というか。」
「その癖引き運ねぇやつだな、あれ。」
「ぶっ!確かに。でもまぁ本命は中々手にはいんないもんだよな。」
「まぁな。」
「欲をかいてるっていうか、当の本人が一番欲しいもの程。」

そして芳紀は手にしていた取り出し口にある輝かしいマークを見て凛之介と顔を見合わせると。

「「こんなもんだよな。」」

2年の教室を覗くと、何やらフードを被って机に伏せる禎をえりちが慰めているようで。
ゴミになんなくて良かったな、と隣に立つ凛之介は笑った。
芳紀もそれにつられて笑いながら、振り向いたえりちを手招くのだった。




(終わり)





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