まだそれは霧の中。01
空からはジリジリと身を焦がすように照り付ける太陽。
地面からはその太陽の日差しを受けた、アスファルトの半端ない放射熱。
言いたくなくても「暑い」と出てくるそんな陽気の中でランニングするだなんて、本当にどうかしてる。
全身汗だくになって帰ってきて、クーラーの効いた涼しい部屋に入れるならまだしも、待っているのは生温かい風が吹くサウナの様な体育館で。
バレーは好きだし、運動も好きだけども、この時期だけは正直入る部活を間違えたと思う。
「だーっ!暑ちぃ!!」
息を切らしながら寝そべる体育館の床は、冷たくて涼しそうな見た目とは正反対に、むかつくぐらいに温められている。
それでも今日はバスケと一緒の使用日で、まだ涼しい方だ。
これがバド部や卓球部と体育館の使用日が重なった時は、最悪で。
やつらは無風が条件だから体育館の半分を完全に閉めきった状態になるから堪ったもんじゃない。
「芳紀、いつまでも寝そべってないで。基礎練、始めるぞ」
「ウィッス。」
寝そべるおれの横を涼しそうな顔をして横切っていく楓先輩。
すげぇよな、ホント凄い。
三年もバレー続けたら、こんな暑さでも涼しそうにできるのか。
こんな暑さの中でまだ動くんだから、一種の修行の様なもんだもんな。
「楓先輩。おれ、基礎練もいいんスけど、アイス食いたい。」
「3キロ先のコンビニまでランニングで行って、全員の分を溶ける前に買ってくるって言うんだったら別に構わないけど。」
「さー!基礎練、基礎練!!」
「おい、みんな。芳紀がコンビニまでアイ・・・」
「ちょ、言ってない言ってない!一言も行くだなんて言ってねぇし!」
おれの意見をまるで無視して、話を進める楓先輩を止めに行こうとしたその時、後ろ手を掴まれたかと思ったら、あっという間に抱きしめられた。
「お帰り〜!待ってたよ、よしのん〜!」
汗いっぱい掻いてるねー、なんてのんびり言いながら、おれよりも小柄なその人は身体をがっちり締め付けて離そうとしない。
というか、細いのに意外と力が強い。
「わっ!えりち先輩、おれマジで汗掻いてるし!つか、ケツ!尻、なんで揉むんすか!」
「そこによっちのお尻があるから。」
至極当たり前の様な顔をしてさらりと答えると、えりち先輩は止めていた手をまた動かした。
おれは必死に身を捩り、抵抗をみせるえりち先輩の手を取ってようやく身体を離すと次のターゲットに向けてえりち先輩の背中を押した。
「楓先輩、パーッス!!」
「楓ち〜ん!!」
「うわっ!ちょ、芳紀!!」
色々マズイ事が起きた時は、逃げるに限る。
おれは背中で楓先輩の悲鳴を聞きながら、全速力で体育館を後にした。
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