健全男子 ☆



※かず「続き部屋にはご用心」の続き。


草と禎がよろよろと美術室から去った数分後、今度はナオがやってきた。
忘れ物をしたわけではない。
かずに借りたシャツを返しておこうと思っただけだった。
ここで、別に禎に渡しておけばいいじゃん、とか思ってはいけない。
ナオはかずが2年の何クラスか知らないし、そもそもまだ禎の名前を憶えていないからだ。

階段から、美術室のある階の廊下に来たところでナオの足がぴたりと止まった。
「…?」
何やら声が聞こえてくる。
禎と草は準備室の扉の前まで行ってやっと聞こえたアノ声であるが、何しろナオは耳がよかった。

「せんせ…おねが、い」
「あ」
「ん…う」
「そこ」
「や…もっと」

ナオは「ふうん」と呟くとすたすたと廊下を歩いて行き、準備室の前まで来ると
「失礼します」
と、ドアをかちゃり、と開けた。

長机の上に、調理を待ちわびる高級食材のようなかずがいた。

ナオは長机に歩み寄ると
「これ、ありがとうございました」
と、いつもと変わらない淡々とした口調で言いながら、アイロンをかけてきれいに畳んだシャツを置いた。
美術の先生はそんなナオを見て
「お前はまた動じないなあ」
と面白そうに言った。
「何かイケナイ事でもしてるとか思わなかったか?」
「先生は学校で生徒に手をだすような、リスクとかスリルを楽しむような人じゃない」
「はは、よくわかってるなあ」

かずが顔を上げた。

「…ナオ君…?」
「かず先輩、楽しそうですね」
「…うん、天国」

かずが上気したほおを緩ませてうふふ、と笑った。

「じゃ、これ確かにお返ししましたから」
「…ん、ああ、いいのに〜…」
「お楽しみ中失礼しました。じゃ俺はこれで」
「ちょっと待って」

ナオを呼び止めたのは先生だった。
「?」
「俺な、明日までに必要な書類を探さなきゃならんのだが、そこの紙の山ん中に入っちまっててな、探す手伝いをそいつに頼んだんだ…が」
「交換条件がマッサージ」
「ああ、けど見てくれソレ。使い物にならない」

そこまで言ったとき、かずが動いた。
「センセー、ね、もうちょっとだけ〜」
「うぉ、腰にかじりつくな!転ぶだろ」
「うー…」
「満足するまでやってくれって、こんな状態で、俺も自分の用事もできない。」

先生の腰に縋り付き、イヤイヤと頭を振るかずを眺めていたナオは、
「じゃ、俺が代わります。マッサージなら少しはできるし、面白そうなんで」
とぼそりと言った。

「そうか?助かった、頼むわ。やー、お前全然動じてないから本当に助かる」
「はあ」
「なんか奢るか?」
「や、いいです。もの選ぶの面倒なんで」

ははは、と笑うと先生はかずをふりほどき紙の山と格闘を始めた。
ナオは、んーんーと唸るかずの後ろにまわると
「さっき先生がやってたときと同じような声が出ればいいんだよな?」
と呟きながら首の付け根に掌をあてた。

「ふあ」
ぞくっとして声がもれた。
「なに…いまの」
そのまま手を滑らせると肩甲骨の内側を押した。

「あ」

「ちょっと弱かったか」

「ん」
「あん」
「ふ」
「うン」
「ちょ…まっ、あ あん」

ナオはかずの反応を確認しながら大まじめにマッサージを続けた。

その日の下校放送は、当番の放送部員がなかなか来なかったため遅れに遅れ、しかもその声は半端に掠れ吐息が混じり、校舎内に残っていた男子生徒(一名除く)がみんなトイレに駆け込んでしまった。そのためいつまでも施錠できず、デートの約束があった教員は遅刻してフラれ、帰り際に買い物を頼まれていた職員はタイムセールに間に合わず家族に怒られ、他にもまあ色々とあったそうな。


おしまいッス。



→えりち「悪魔な悪戯」に続いてます。そちらもどうぞ!
 

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