Tea for two/01
※ナカ「優しい夜」の後。
茶、飲むか?
4時限目が終わると、お昼だ。
ナオが教室から抜け出してしまう前に弁当を渡そう、と急いで駆け寄ってきたナカに、ナオが言った。
「お茶?」
「ああ」
ナオから話しかけることが殆どないので、自分に言っているのかとナカは思わずキョロキョロしてしまった。
「俺がアンタ以外の誰に話しかけると思ってるんだ」
考えようによってはかなりイミシンな台詞であるが、ナオの場合はいかに人付き合いがないかを示しているだけである。いつものナカならそう思う。
でも今日は。
知ってるよ、かず先輩とデートしてるの見ちゃったもん。
と言えるはずもない。
口の中が乾いて、喉がひりひりする。
どうしてナオから話しかけてくるの。
先週までならきっとすごくすごく嬉しかったのに。
「え?やっぱ俺?」
なんとか言葉を捻り出した。いつもと同じ調子だよね、俺。
「いつも弁当貰ってるからな、たまにはいいだろ。今時間あるか?」
「えーなになにどういう風の吹き回しなの?」
「先約があるならそっちを優先しろ」
「えっううん、あるある!ないない!」
「…どっちなんだ」
購買で買ってくれるのかな?
何にしようかなー。
なんでもいいや、ナオが買ってくれるんなら。
「飲むだけに作法なんて必要ないから心配するな」
「え?何の作法」
「だから、茶だ」
「え?お茶って、お手前のことなの…?」
「俺を何部だと思ってるんだ」
「茶華道部…」
「じゃ行こう。弁当もそこで食えばいいだろ」
そう言うとナオは立ち上がり鞄を肩に掛け、ナカの手を掴んで教室を出た。
部室のある生活館へ向かう間、すれ違う先生や知らない生徒が、二人を見てにこっと笑う。
161cmというのは男子として決して大きくない。むしろ小さい。
ちょい大きめの肩掛け鞄や、大きいアパレルの紙袋(しかもエゴイスト)も二人が持つと巨大に見えると言うか、二人の小ささを目立たせる。
加えてまたふたりとも、男子特有の何とも言えない汗臭さというかアブラ臭さというか青春の分泌物臭さが全く無いのだ。
そんなのが二人で手をつないで早足で歩いているのを見かけると、幼稚園児のお遊戯を見ているような気分にでもなるのだろう。
どっちかが大きかったら、よかったのに。
ナカはそんなことをふと思って泣きそうになった。
切ないよぅ。
手、離してよ。
ね、ナオ。
お願い。
一歩ごとに言えない言葉が胸に溜まっていった。
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