屋上で【凛之介】



 
「ナオくんとナカくんでしょ。草ちゃんと禎ちょでしょ」

 凛之介の隣でえりちはくすくすと笑う。

 「あ?何の話だよ」

 同好会のメンバーを屋上で待ちながら、えりちは凛之介と二人並んで座っていた。
 夏独特の少し湿った生温い風が二人を強く揺らす。

 「凛之介クンはよっちかな?」

 立てた膝に顎を置いて凛之介の方を見もしない。それでも口元の笑みは本当に楽しそうに笑ってる。

 「何が言いてェんだよ」

 あからさまにムッとしてる顔を横目で見ながら、風にあわせてゆらゆらとえりちは体を揺する。
 ゆーらゆーら。
 本当に風に揺すられてるみたいに。
 
 「ブランコに乗りたいなあ」 
 「おまえ頭大丈夫か」
 
 かみ合わない会話もえりちならと、いつもなら溜息交じりで納得するがこの話だけは別だ。

 「俺を怒らせたいなら乗ってやってもいい。どうせおまえの考えてる事なんかわかりゃしねえ」
 「酷いなありんちゃん。別に怒らせたいわけじゃないよ。ただ皆仲良しで楽しそうだからいいなあって。それを見てるとすっごく幸せになるんだよね、おれ」

 そう言って本当に嬉しそうに笑う。

 「よっち可愛いよねえ。明るくてきらっきらの太陽みたい。おれもよっち大好きー」

 ね、と視線だけ移すと凛之介の眉間には深い皺が出来ていた。

 「おやおや。こんなところにお山発見。火山の爆発で地形が変わりましたねえ」

 そう言って指で突くと、その手を乱暴に捉まれた。

 「痛い。いたた。痛いよりんちゃん」
 「誰と誰が仲良しだって?」
 「いたーい!指が痛いよ」
 「もっかい言ってみろよ」
 「痛いって言ってるのに」

 低い声で顔を近づけると、涙目で痛がってたえりちは体を横に向き変えて捉まれてない方の手で凛之介の後頭部を引き寄せた。
 そして凛之介の唇を小さな舌でぺろりと舐めあげる。
 咄嗟の事でぎょっとなり力の緩んだところで手を振り払った。
 それから体重をかけてそのまま凛之介を押し倒す。
 
 「いって!」
 
 コンクリートの床に頭をぶつけて呻く凛之介に、えりちは馬乗りになってくすくすと笑った。

 「形勢逆転ー」
 「ふざけろ馬鹿」
 「きゃー助けてー犯されるーって言ってりんちゃん」
 「言うか」
 「つまんなーい」
 
 そのまま細い腕を掴んで引き寄せようとしたが、腕に力を入れてそれを拒否された。

 「りんちゃんはよっちと仲良しでしょ」

 その顔に一瞬笑みが消えた事でまた力を緩めてしまい、その隙にえりちはするりと立ち上がった。

 「今日は用事があったんだった。ごめん帰るね。皆に言っておいて」
 「おい待てよ」
 「じゃーねーりんちゃんバイバイー」
  
 凛之介は慌てて体を起こしたがえりちは黍を返して駆け出すと、あっと言う間に扉の向こうに消えた。
 凛之介は大きく舌打ちして胡坐をかきながら溜息をついた。
 
 「逃げるな馬鹿が」

 そんなつぶやきは強くなった風の中でかき消された。
 

おわり

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