かずSide続き部屋にはご用心
ナオSide健全男子
の続きになります。
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【悪魔な悪戯】
えりちは細い見掛けと反対に力がある。
その容姿故主に男性から一方的にモテるが、えりち自身恋愛には隔たりがない。なので、好きになったら女性でも男性でも構わないと思う。
そして中身は男なのだから、当然女性には優しくがモットーである。
だから今は女性の音楽教員の為に重い楽器などが入ったダンボールを、音楽準備室に持って行く所であった。
だがしかし、その音楽準備室の中で今まさにかずがなまめかしい艶声を発してる真っ最中であった。
「……?」
その前まで来てピタリと足を止める。
えりちはそおっと耳を澄ませて中の様子を探った。
「ん」
「あん」
「ふ」
「うン」
「ちょ…まっ、あ あん」
健全なる男子ならば絶対にあっちの方向へ想像が行ってしまうはずだが、えりちはこれがアノ時の声だとは思わなかった。だてに場慣れしているわけではない。
これってかずくんの声だよね…。マッサージでもしてるのかな。
それにしても随分と色っぽい声してるなあ。かずくんって…。
えりちはにやりと悪い顔で笑って、感じやすいんだ…かずくん。と呟いた。
その顔はいつもの花が咲いたような可愛らしい笑みなんかではなかった。強いて言うなら魔女。大釜で毒々しい色の魔法薬をかき混ぜながら、「いーひっひっひ」と高笑いをする悪役の笑みだ。もし、えりちに想いを寄せる男子がみたら間違いなく腰を抜かし奥歯をガタガタとならしながら「おお神様悔い改めます」と祈るだろう。
そのくらい悪い顔でえりちは笑った。
そうしてその場に重い箱をよっこらしょと静かに置く。それを音がしないように隅にずずずっと寄せて回りを見回した。
人影なーし。
それから準備室のドアをそろそろと開ける。
中の様子をそおっと覗くと長机の端が見えて、かずの姿が見えた。どうやらえりちの思ったとおりマッサージをしてるようだ。そしてその相手の顔を確認する。
ナオくん!ナオくんだ!
カズは蕩けそうな顔して「ん」とか「あン」とか悩ましげな声を出してるがナオの方は至って真面目な顔で黙々をマッサージをしている。時々ちらりとかずの反応を伺ってるのは、きっとちゃんと気持ちよがっているのか確認してるのだろう。
真面目にマッサージしてる!かずくんがあんなに喘いでいるのに!あんなエロい声出しているのに!
えりちは可笑しくて声が出そうになったが自分の手で口を押さえて我慢する。体がぴくぴくと震えて立っているのが辛いくらい可笑しくてたまらない。
それから、息をすーはーと整えてまた音がしないように扉を閉めた。また回りを見回して誰もいないのを確認すると、そろそろと扉から遠ざかる。
ある程度離れてから、ダッシュで駆け出した。声が届かない距離をとったのを確認すると、そこの廊下の窓を開いて大声で笑い出した。
「あーもー死にそう!駄目ええー!あーははははははは!」
その大声に通りすがりの何人かの生徒がぎょっとするのが分かった。
えりちはある程度笑ってから、涙を拭いて息を整えた。それからその辺の男子生徒を捕まえてにっこりといつもの笑みを投げかける。
「ね、僕さ、ちょっとお腹痛くなっちゃって保健室に行きたいんだけど、音楽のセンセに頼まれた荷物、準備室の前に置いてきちゃったんだ。悪いけど君、あれ職員室に戻しておいてくれない?」
ね?と両手を合わせてウインクをしてやると、真っ赤になって相手の男子は何回も頷いた。
「それとね、中で大事な打ち合わせをしてるから、準備室の扉は開けちゃ駄目だよ?ね?」
頼んだ男子がふらふらと行ってしまうのを見て、またその近くの男子を捕まえる。そして同じ台詞を何人かの生徒に繰り返し言ってから、また自分の教室に走って戻った。
えりちの悪魔のようないたずらで、大勢の男子生徒はその日とんでもない声を聞かされてしまい男子トイレは大賑わいになってしまった。だが、幸いにも「あのエロい声」の持ち主が誰なのかは、誰にも分からなかったみたいだが。
おわり