こちらは芳紀Side
【まだそれは霧の中。】の続編です。
芳紀Side
当作品を後に読むとわかりやすいかと思います。
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りんのすけは、芳紀がヤンヤンをおごってくれるから、なんて都合良く自分に言い訳をしてみる。
体育館を覗けば、えりちが楓にまとわりついている所で。
「おい」
不機嫌そうな面構えのまま、呼んでみる。
気付かないえりちにイライラしたりんのすけは、ズカズカとその背後から歩み寄ると腕を掴んだ。
「シカトしてんな」
「あれー?りんくん、部活は?」
すっとぼけた顔だ。
「今日はもうサボるっつの。」
ズルズルと引き摺られながら、えりちは「またねー」と楓に手を振った。
楓はと言えば、にやりと笑って部活に集中する。
りんのすけが部活をサボるなんてそうはないのだけど。
りんのすけは軽い舌打ちのあと、手を離した。
「誰にでもちょっかいかけてんなよ」
「何で?あ、もしかして妬いてんだ!!可愛いなー、生意気だけど」
「迷惑に思うやつだっているかもしんねぇだろ!!」
「心配してくれてんの?嬉しいなぁ」
楽しそうに笑うえりちにりんのすけは歯軋りをした。
おもむろに掴まれた襟を引き寄せられ、一瞬身構える。耳元にえりちの吐息混じりの甘い声。
「そんなりんのすけも好きだけど」
呼び捨てにしたり、くん付けにしたり、この使い分けは何なんだろう。
かっと染まる頬が苛立ちを倍増させる。
「いいから帰んぞ!!」
「はいはい、お母さんみたいだね」
せめてお父さんにしろ、と年下のりんのすけは思った。
「一人で帰るの嫌いなのか?」
「誰かといる方が楽しいじゃん」
答えになってねぇと思いつつ、りんのすけはそれ以上聞かない。
「男バレは今日遅くなるらしいから、仕方ねぇから一緒に帰ってやんよ」
「もしかして俺に惚れちゃった?」
「ばっ…んな事あり得ねぇから!!」
何で?と首を傾げるえりちは、本当に不思議そうで。
「男が男に、なんてある訳ねぇ」
そうは言っても浮かぶ顔もある。
りんのすけは否定する様に首を振ってみせた。
「ねぇよ、そんな事」
もう一度言ってみるけど。
「素直じゃないなー。」
えりちはにっこり笑って追い討ちをかける。
「みんなにばらしちゃうよ?りんくんの好きな人」
「るせーな、そんな野郎いねぇって言ってんだろ?」
正門近くの壁にえりちを押し付ける。
「やだな、ムキになって。
男だなんて言ってないじゃん」
くすくすと意地悪く笑って、えりちはりんのすけの首に腕を回した。
「チューしてくれたら黙っててあげてもいいけど」
くわえたチュッパを出しながら、誘う様に舌を見せる。
「離…」
「やーだね」
「てんめ…いい加減に…」
完全にキレそうなりんのすけを、えりちはあっさり解放した。
「マック寄ってこっか?」
「おい、待てっつの!!」
ムカついてムカついて、だけど、どこかで否定できない自分。
胸がドキドキ痛くて、どうしたら治るかわからない。
えりちはその答えを知っているのだろうか。
りんのすけは忌々しいといった顔をしながらも、えりちに続いてマックに向かった。
おしまい。