02




家の近くの公園に芳紀は待っていて、ブランコをゆるゆると漕いでいた。

「遅い!!」
「ん、わり」

芳紀はそれでも笑顔で駆け寄ってきて。
「で何?」
りんのすけはポケットに手を突っ込んだまま面倒くさそうに言う。

「どうしても聞きたい事があって…
つかお前んち行っちゃ駄目?」
芳紀は時々、妙に律義だ。
さっき電話してくるくらいなら直接来たらいいし、そうでなくても電話の後でそのまま来たらいい。
「わざわざ呼び出しといて炎天下待って…そんなら俺の部屋にいたらいいだろがよ」
洗い晒しの髪をわしゃわしゃと混ぜ、さっき祖母に言われたばかりの言葉を思い出す。

「ま、いーや、来いよ」
「ちょ、待って!!お土産とかいらないかな」
「…初めて家族に会う女かお前ぇは」

むぅと下唇を出す芳紀にりんのすけは、はっと笑って“行こうぜ”と言った。



部屋に上がるまでに数人とすれ違い、緊張気味に挨拶をする芳紀にりんのすけはどこかくすぐったさを感じる。
とにかく、さっさと部屋に入り扉を閉めた。


キョロキョロと辺りを見回し、芳紀は促されるまま床に座る。
さっきまで寝てた布団を足で避けたりんのすけは、少し距離をおいて向かいに座った。


「で、聞きたい事って何だよ」
「いや大した事じゃないんだけど…」
「あ…その前に何か飲みモン取ってくるわ」

りんのすけが部屋から出た後、芳紀は男くさい部屋を再度見渡した。
CDやMDは乱雑に散らばっているけど、それほど汚い部屋ではない。
壁には誰かわからない外人のポスターが一枚だけ貼ってある。
所々、穴が開いた壁は気になるけど、芳紀は棚に並ぶぬいぐるみや写真のないフォトフレームの方が気になった。
貰い物っぽい物が多数で、それを意外にもきちんと整理してる所が笑えた。

「あ」
開きっぱなしのクローゼット。
ぎっしりと服が詰まってる所を見ると、夏も冬もここから引っ張り出しているのだろう。

その下段。
見慣れた菓子がぽつんと一個。


「凛之介、入るよ」
嗄れた声がしたと思うと、扉が開く。


「あれ、凛之介の友達かい?」
「あ、こんにちは、お邪魔してます」
りんのすけの祖母が小さめの段ボールを脇に抱えて、ちょっとごめんねと入ってきた。

「あの子、無愛想だろ?
あんな子だけど仲良くしてやってね」
祖母はそう言って笑うと、段ボールを開けて慣れた手つきでそれを取り出した。


「ヤンヤン…」
トレーに乗った10個入りの菓子を定位置らしき場所に置いて、最初からあった1個をそこに乗せる。
「最近売ってる店が減ったもんだから、見つけたら買っておけってうるさいんだよ」
謎のひとつはこうしてあっさり解けた。
メーカーから取り寄せてなくて良かったと芳紀は思う。
だって、お菓子見る度に笑っちゃうじゃないか。


「小さい頃からこれが好きでねぇ。食べ方もずっと同じ」
「食べ方?」
「このお菓子知ってるかい?最後にチョコが結構残っちゃうんだよ。あの子はそれをいつも指を突っ込んで綺麗に食べてたんだけど、みっともないから外でやるなって言ったらそれはそれは怒ってね。
今は誰にも見られない様にコソコソ食べてるよ。」
祖母は豪快に笑ったけど、芳紀は固まった。

「おや凛之介、友達来てるなら声くらいかけなさいな」
ペットボトルを持って入ってきたりんのすけに声をかけると、芳紀に向かって“ゆっくりしていきなさい”と言って祖母は出て行った。

「どした?」
怪訝な顔のりんのすけ。
気まずそうにモジモジする芳紀。

「あ?何だよ」
「ごめん!!」
ますます険しい顔になるりんのすけに芳紀は下げた頭の上で手をパンと合わせた。

「気になってたから聞いてみたくなったんだけど…お前の婆さんから聞いちゃならん事をおれは聞いちゃったみたいだ」
「だから何を…」
「言えない!!」
ぴきっと音がするくらいの勢いで、りんのすけの額に血管が浮かぶ。
「めんどくせぇな、言えよ」
意を決した様に芳紀は言う。
「…ヤンヤンのチョコの行方…」


ぼっと赤面したりんのすけと、それを盗み見て同じ様に赤面する芳紀。


「いやほら、おれもそうする、かも…知れないし…」
「…いいだろ別に」
「うん、いいよ別に」
「お前の許可はいらねっつの!!」
「あ、ごめん」
「一個やるから、食ったらわかる」
「うん、ありがと」


微妙な空気は夕方まで続いたのだった。
 

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