01





自分の部屋でりんのすけはまだうとうとしていた。
「りんくん、電話」
父親があの人を連れて来たのはもうずっと昔、小学校に上がったばかりの頃で。

「部屋に勝手に入るなって散々言ってんだろが」
「はいはい」
優しいお姉さんだった彼女が気付けば母親になった。
もうすぐ、弟か妹が産まれる。
胸糞悪い家だ、とりんのすけは思う。

自分に然したる興味もないくせに、くだらない事には踏み込みたがる。
どうせなら完全に無視してくれたらいいのに。

開いたままだった本を乱暴に脇によけ、ボサボサの髪を手櫛で数度掻き上げ留めた。

「で、誰から」
「さあ?聞いてないけど、どうせりんくんの悪い友達なんじゃない?」
ちらと目を上げたりんのすけを見て、彼女は“やぁね、怖い顔”と言った。



「誰?」
りんのすけの無愛想な出方は中学時代から変わらない。
「おれ、芳紀。今から出られない?」
「…シャワー浴びてからなら」
「いいよ、待つから。てか携帯持てって。
今時お母さんと話すとか緊張すっから。」

受話器の向こうで芳紀が軽く笑う。

「…昔は持ってたけど、やっぱいらねんだよ」
その言い方が引っかかったけど、約束を取り付けた芳紀は“じゃ後で”と電話を切った。

シャワーから出たりんのすけは、いつも通り下着姿で頭をガシガシ拭いて長い廊下を歩いている。
祖母の弟子達も慣れたもので「りんくん、少し痩せたんじゃない?ちゃんと食べてる?」などと着物姿で廊下をすれ違う。
「うん」
子供の様に頷いて、りんのすけはTシャツに袖を通した。


「凛之介」
廊下を急ぐりんのすけに部屋から祖母が声をかける。
障子を細く開け「なに?急いでんだけど」と答えれば、髪を結い上げた祖母が煙管で招いていて。


しぶしぶりんのすけは従う。
「本なら今読んでるっつの」
「そうじゃないよ。お前高校行く様になってから、何かあったかい?」
「別に」
「好きな相手でもできたんじゃないか?」
「ばっ、なーに言ってんだよ、くだらねぇ」
「そうかい、ならいいけど。
お前…中学の頃より随分学校楽しそうじゃないか」
「まぁな、悪くねぇ」
「そのうち友達連れてきな。昼間にお前を誘うなんてまともな友達なんだろ」
「そ…かもな」

目を伏せたりんのすけに、祖母は優しく言った。

「たまには大声で笑いなさい。気持ちいいから」
「余計なお世話だっつの」
そう言いながらもにっと笑い、りんのすけは急ぎ足で外に飛び出す。


「今が中学生みたいだねぇ…」
祖母は読みかけの本に挟んだ手製のしおりをそっと抜いた。
それは、幼稚園時代のりんのすけがくれた初めてのプレゼント。


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