もっと惚れ薬



「…これ、なに?」



目の前で足を組んでノートパソコンと睨み合う小さな科学者にそう尋ねたのがお昼前。



「ああ、良いところに現れたから実験台になってもらったのよ」



効果は3時間だから、切れるまで貴女の家にいた方がいいわよ。

そう言われて彼のRX-7に乗せてもらい、玄関を開けたのが、今。



「シノブさん…好きです」

「…知ってます」



瞳をうるませて至近距離で見つめてくる降谷さん。

ここ、廊下ですよ。

靴を脱いでリビングへ向かって歩きだそうとしたら腕を捕まれ壁に優しく押し付けられた。



「なんででしょう。いつもシノブさんのこと綺麗で可愛くて大好きだと思っているんですけど、今日は全身で愛を表現したくてたまりません…」

「は、恥ずかしいことを…!」



それは哀ちゃんの作った惚れ薬のせいです。

正確に言うと、愛情に正直になる薬らしい。

なんでも、微妙な距離の幼馴染カップルが何組もいて気になるから、いつか必要になるときのために遊びで作ったのだとか。

でもやっぱり愛情が誇張している気がする。これはもはや惚れ薬だと思う。



「ね、降谷さんちょっと離してくれない?」

「嫌です。離したくありません…。ずっと、離したくない。」

「ん!ちょ、んんん!ちょっと〜!」



そのまま上を向かされ、ちゅっちゅっと唇を食べるように奪われる。

別にキスをすることは嫌ではないのだが、いつもと違う雰囲気にどうしても少し照れが入ってしまう。



「…シノブさんは俺とキスするの、嫌なんですか?」

「い!嫌じゃないよ…でもなんかいつもより積極的だから、その、ちょっと恥ずかしい」

「〜っ可愛いです!」



ぎゅっと両腕ごと抱きすくめられ、さらに額にキスを贈られる。

優しく触れる降谷さんだが、やはり力が強いのでここから抜けられそうにはない。



「降谷さんは惚れ薬のせいでいつもより私のこと好きになっちゃってるんだよー!」



また近づいてくる顔に、ふるふると顔を横に軽く振りながら抗議する。

すると近づいてくる気配がピタリと止まった。



「…降谷さん?」

「違います。」

「えっと…?」

「惚れ薬なんかじゃないです。いつも、こうして貴女を腕の中に閉じ込めて、キスしたいって思ってます。」



目の前の降谷の顔はみるみる真っ赤に染まっていく。

玄関に置いてある時計を確認すると、降谷が薬を飲まされてから3時間と15分。



「降谷さん…」

「…貴方の前で格好つけて余裕のあるフリをすることもありましたが、シノブさんのことが大好きすぎていつも大変なんですから」



少し腕の力を緩めて、向き合った。

両肩を掴む降谷の表情は真剣で、思わず視線を逸らしてしまう。



「ふふ、いつも俺ばっかり余裕がない感じがしてたんですけど、照れてるシノブさんも、とっても可愛らしいです。」



ね、抱きしめてキスするだけですから、シノブさんのベッドルームに行ってもいいですか?

赤い顔をして開き直る恋人に、傾いて頷くのが精一杯だった。









(ちょ、降谷さん、どこ触って…)

(ん、ちょっとだけですから…)

(調子に乗っちゃ駄目!!)

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