趣味
「ねえ、あの女の人怪しくない?」
「え?どこどこ?」
「ホラ!奥の窓際にいる女の人よ!店内なのに帽子とサングラスしちゃってさ!もしかしてこれから不倫とか!?」
「まさかー、園子ったら」
「……」
休日のポアロ。
俺の隣の蘭に詰め寄るようにして園子が身を乗り出してくる。
コソコソ話をしているつもりかもしれないが、ぜってぇ聞こえてるよ…。
あまり関わり合いにはなりたくないが、人間観察は探偵の性。
蘭に隠れるようにしてそちらに目を向けた。
「へぇ〜綺麗な感じの人だね!」
「ね、服装もお洒落だもんね」
園子の不倫がどうとかいう話は置いておいて、蘭は女性の服装を見て顔をキラキラと輝かせている。
顔は隠れてはいるが、スタイルや持ち物などから感じるオーラが凄い。
「ていうか蘭!あのワンピース…」
「え、ウソ…見た事あると思ったらKUDOの新作ワンピじゃ…」
「ぶっ!」
「コナン君!?大丈夫!?」
「なーにやってんのよ、がきんちょ!汚れるじゃない!」
これも”KUDO”の限定キャミなのよ!と怒鳴られる。
“KUDO”
ファッションに興味がない俺には見分けは付かないが、一流のファッションブランドだ。
若い女優やモデルなんかにも人気だが、なにせデザイナーが気まぐれで、一応シーズンごとに何かしら新作はあるらしいが、いつ出るかも不明で、数量限定なんてものも少なくない。
「ていうかあの人、シノブお姉さまだったりして」
「えー?でもシノブさんは金髪でもないし、前会ったときはショートだったよ」
じっと二人が女性を観察する。
改めて言うが、声も小さくないし、絶対にバレてると思うが…と考えていたら不意に女性がこちらを振り向いた。
「店員さん、お会計お願いします。」
一瞬ドキリと心臓が音を立てたが、会計をするだけのようだ。
「あ、ほら、やっぱり声も違うもの」
「なーんだ、やっぱりねー」
蘭と園子はその後もその女性や、”KUDO”の話で散々盛り上がった。
日も傾いてきて、そろそろ会計というときに安室さんが「もう先ほどの女性から頂いてますよ」と言われたときには、3人とも顔を見合わせた。
(本人だったんなら一声かけろよ…)
(ふふふ…今回も上手く化けれてたようね!)