小さくなった恋人
「…どうしたんですか、これは」
「どうもこうも、見た通りよ…」
今日は久々に降谷の予定が何もなかったためシノブをドライブに誘っていた。
先週末あたりから、彼女をどこにつれて行こうかとか食事のジャンルは何にしようかとか色々考えて楽しみにしていたのだが…。
自宅まで迎えにきてインターホンを鳴らす。
そうして出てきたシノブの姿に降谷は目の前の光景に目を疑った。
「…縮みました?」
「そうね。あと少し年齢が若くなって、声も高くなって、ついでに胸は減ったわ。」
胸…降谷は額に手を当てて項垂れた。
「とりあえず…今日のデートは行きます?中止します?」
「行くに決まってるじゃないの!」
にっこりほほ笑む顔は変わっていない。
俺の恋人はどうやら小さくなったようです。
「知り合いの研究員の薬のサンプル?」
「そうなの。通常の…いえ、健常な体には効かない筈だったんだけど…」
「そっ!そんな怪しい薬飲まないでくださいよ!何かあったらどうするんです?!」
助手席で不服そうに唇を尖らせているシノブさんは、なんと15歳らしい。
最も、精神年齢もそうだが、一見大人っぽい雰囲気の彼女は15歳には見えない。
(一応言っておくが決して老けているわけではない)
「…そのサンプルは、若返る薬だったんですか?」
「いいえ、本当は10歳ほど年を取る薬だったんだけどね」
失敗だったみたいね、と肩を竦める。
それにしても、今の状態の彼女を連れまわして本当に大丈夫だろうか。
15歳とデート…日本を守る警察官が、中学三年生と、デート…。
「…俺、同職者に捕まりませんか?」
「何言ってるの。本当にもしそうなったら兄妹のフリでもすればいいじゃない」
「いや、似てなさすぎですよ…」
多少幼くなった彼女の頭に手を置き撫でる。
子供扱いされていると分かったのか、シノブの眉間に皺が寄るが、シノブが頭を撫でられ俯いているので降谷は気づいていない。
「だから、まずそんなこと起きないわよ」
「はあ…いや、でも兄妹と間違われたら間違われたでショックですね…」
降谷の手を少し乱暴に退ける。
何気なくその手を自分の額に持っていき、未だぶつぶつ言っている降谷を、すっと目を細めて見据える。
口元には笑みを添え、降谷の額の手をそっと外した。
「シノブさん?」
「降谷さん…本当に私が中学生に見えるのかしら?」
外された自分の手で隠れていた、シノブの顔が降谷の目に入る。
「もし、15歳に見えるっているなら、降谷さんはロリコンの変態なのね?」
「っ!」
首を傾げ、もう片方の手で頬を撫でる。
その指に少し力を入れ、顔をぐっと近づけ、止めとばかりににっこりとほほ笑む。
「今日のデートを中止したいなら、その耳まで真っ赤に染まった顔をなんとかしないと説得力がないわよ」
「…車を出してきます」
シノブは愛車のキーを出してそそくさと去っていく背中に機嫌よく手を振った。
(「…兄妹には間違われませんけど…」)
(「まさかのスカウトラッシュとはね…」)
もちろん降谷さんが全て追い払いました。