タイミング


休日のポアロ

ゆったりとしたテーブル席で、向かいには新ちゃん

お互いの目の前にはレモンケーキとアイスコーヒーが置かれている。



「っつーわけで、太閤名人と由美さんの結婚は遠のいたわけだ。」

「へー、面白い話ね」

「バーロー、俺たちは振り回されてるだけだっつーの」



ちなみに今日は安室さんはシフトが入っておらず、公安の降谷零の日だと聞いている。

私はいつも通り仕事もないので家でぼーっとするしかないと思っていたのだが、珍しく新ちゃんからのお誘いが飛び込み、喜んで腰を上げたのだ。

蘭ちゃんもおじ様も出てるから一緒にランチをしてくれ、だなんて…いつも通り可愛い弟だとついつい顔がニヤけてしまう。

現在時刻は14時過ぎ、ランチも終わり、デザートを食べながら最近の出来事について話をしているところだ。



「おい、姉さん聞いてんのか?」

「え?聞いてる聞いてる。太閤名人もロマンチストよねー、7つタイトル取ったら封筒を開けてくれ…しかも中は婚姻届だなんて」



相手の由美さんも、さっさと中を確認するでもなく持ち続けてるところが凄い。

まあ結果的には捨てちゃったみたいだけど…私だったらこっそり見てしまうかもしれない。



「その二人を見習って、高木くんも美和子にプロポーズしちゃえばいいのにね〜」

「ハハ…なんとなく先は長そうだよなぁ、あのカップルは」

「高木くんがヘタれだからね。美和子もいい歳なのにな…」



姉弟揃って高木の顔を思い浮かべる。

むしろあのカップルは佐藤からプロポーズしそうである。



「で、姉さんの方はどうなんだよ」

「え、私ー?」



ワタワタする高木を思い浮かべてにやにやしていたところに弟からの不意打ち。

頬杖がずれ、シノブの頬を押し上げた。



「降谷さんと付き合ってんだろーが。」

「あーうん、そうだねぇ…」

「姉さんも25だし、降谷さんは29だっけ?そんな話しねーのかよ」



さらっと言う新ちゃんに、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになる。



「うーん…まだ恋人関係になってからそんなに経ってないしなぁ」

「けど付き合いは長いんだろ?」

「まあね。確かに、結婚の話がいつ出ようが私はいいんだけど…」



降谷さんとなら一生一緒にいても楽しいだろうし、二人とも収入は多い方だから安定してるし、私が家にいるようにすれば主婦もできるし…。

そこまで想像して、なかなかいいんじゃないだろうか、と頷く。

新ちゃんには私が想像していることが手に取るように分かるのか、また呆れた目でこちらを見ている。



「でもまあ結婚はタイミングよね」

「タイミング?」



私の言葉におうむ返しをしてくる新ちゃん。

少なくなったアイスコーヒーが音を立てている。



「どうしようもなく結婚したくなったり、そういう雰囲気になったり、周りから固められたり…」

「ふんふん」

「妊娠したり」

「ぶっ!」



アイスコーヒーが少なくてよかった。

そう思いながら梓ちゃんに新ちゃんの分のおかわりを頼む。



「それぞれタイミングがあるのよ、きっと」

「ふーん…」



ナプキンで口元を拭きながら、梓ちゃんからコーヒーのお替りを受け取る。

半眼で怪しむような新ちゃんの目がこちらを見る。



「なによ」

「いや、姉さんなら自分からきっかけを作りそうなもんだと思って」

「…赤ちゃんつくろうか?」



無言で睨みつけられたため、今日この話題はここで終了となった。

しかしこの会話で少し思う所があったシノブは、帰りに市役所に寄って帰ることとなる。






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後日



「風見さん、降谷さん宛に郵便が来てるんですが…」

「…降谷さん宛だと?」



籍を置いているのは警察庁公安部とはいえ、降谷に郵便が来るようなことは無い。

なにせ彼はいまトリプルフェイスを使い分ける潜入捜査官なのだ。

警察庁に来ることも多いが、外部との接触は絶たれている。

まさか、組織関連の者だろうか…険しい表情で封筒を受け取った。



「…ん?」



カウンターから物凄い勢いでこちらを振り返った風見の視線を感じ、降谷が自席で顔を上げた。

同時に大股でこちらに向かってくる風見。

白い封筒を持った手を付き出している。



「どうした、風見。その封筒はなんだ?」

「わかりません!しかし、差出人が…」

「…シノブさんから?」



真っ白な封筒を裏返すと、差出人のところには綺麗なサインが書かれている。

初めての手紙だなとか、サインが仕事用のものと違うなとか、何でここにとか色々思うところはあるが、とりあえずデスクからペーパーナイフを取り出し丁寧に開封する。



「………」

「な、何が入っていたんですか?!」



風見も、中を覗くなんてことはしないが、中身が気になっているようだ。

しかし、これは他人に見せるわけにはいかない。



「…デートの約束だった」

「えっ!いいですね!楽しんできてください!!」



興奮してテンションが高くなっている風見を彼の自席へと追いやり、改めて中身をまじまじと見る。

風見には悪いが、本当のことは言えない。


封筒の中は、白紙の婚姻届が一枚

一体どういう意味があって彼女はこれを送ってきたのだろう

俺と結婚したいというメッセージなのだろうか

この時から降谷は一日にやけそうな口元を抑えて仕事をする羽目となる。








(『シノブさん、あれは一体どういう意味だったんです?』)

(「届いたのね!一昨日結婚の話してたら、私はいつ降谷さんと結婚してもいいなぁって思っちゃって、市役所に貰いにいってきたのよ」)

(『えっ…!』)

(「プロポーズは、いつか降谷さんからしてね。」)

(『わ、わかりました!!…楽しみにしておいてください。』)

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